好きの代わりにサヨナラを【蒼編】《完》
通されたのは、粗末な椅子とテーブルが置かれただけの狭い部屋だった。

圧迫感のある部屋に入った俺は、万引きGメンに捕まった犯人になった気分だった。



「どうぞおかけください」

客に勧めるにはボロすぎる椅子に、とりあえず俺は座った。



「他のお客様のご迷惑になりますので、こちらにご署名いただけますか?」

警備員がテーブルに置いた紙に書かれた文章に目を通す。

『今後snow mistの握手会には参加しない』と書かれた念書のようなものだった。



「どうして個人情報書かなきゃいけねぇんだよ」

「ですから、今後同じようなことをされますと、他のお客様のご迷惑になりますので……」

「俺が誰に迷惑かけたっていうんだよ……」

「とりあえず、ご署名いただけますか?」

人が良さそうな警備員がボールペンを差し出してきたが、俺は受け取らなかった。
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