好きの代わりにサヨナラを【蒼編】《完》
「蒼君、よく握手会に来れたね」

俺のことを誉めてるのか、けなしてるのかわからない。

誉めてるようにみせかけて、馬鹿にしてるのだろう。

この前電話で話した時から、俺はこの男にいい感情を持ってはいない。



「ほのかは動揺している。
彼女を困らせるようなことは、やめてもらえないかな」

「俺が、ほのかを困らせたっていうのかよ……」

「ほのかは控え室で泣いている」

あいつの泣いている姿が思い浮かんで、俺は口ごもってしまった。



「彼女はファンに謝罪して、もう一度やり直す覚悟を決めている。それを妨げるようなことはやめてくれないかな」

俺はうなずくこともなく、目を伏せて男の話を聞いていた。
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