好きの代わりにサヨナラを【蒼編】《完》
ようやく映画の上映が始まる。

照明が落とされて、やっと緊張がほぐれた。

俺はここで初めて炭酸飲料に口をつけた。



大きなスクリーンに、制服姿のほのかと恭平が並んで映し出される。

そういう役なのかわからないが、黒淵の眼鏡をかけて内気な感じで話すほのかもまた可愛らしかった。



話の内容は、正直つまらなかった。

少女漫画原作らしいが、男が楽しめるようなものではない。

ほのかが一ノ瀬恭平演じるイケメンにちやほやされる様子を見てそんなに気分はよくないが、それに戸惑うあいつの表情を見て幸せな気持ちになっていた。



女は、こんなふうに男にちやほやされたいのか……

『俺が好きなのはお前だけだ』とか『お前は俺が守る』とか言われたいのか?

こんな恥ずかしいセリフを口に出せる訳がない。



少女漫画に出てくるくさいセリフどころか、俺はほのかに『可愛い』とか『綺麗だ』とか、ちょっとした誉め言葉をかけたこともなかった。

心の中ではほのかが世界で一番可愛いと思っているが、そんなこと本人に言える訳がない。

素直に誉めちぎれるイケメン俳優が、俺はうらやましかった。
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