ヤンキー社長の求愛

「石田さん、社長が呼んでます」

「…え」

「今すぐ社長室まで行って下さい」



ある日の午後。

いつものようにパソコンと向き合って仕事をしていたら、突然同じ部署の後輩からそんなことを言われた。

社長からの呼び出し。

最初はそれだけで物凄くビクビクしていたけれど、今となっては「ああ、またか…」という感じ。

だってあの社長、別に仕事のことで呼んでるわけじゃないってわかってるから。



「…わかった。ありがと」



あたしはそう言うと、一旦手を止めてそのまま室内を後にする。

この会社の社長の名前は、南一矢。24歳。

誰もが知る大手ブランドの社長の息子で、この春から新しくその地位を築くことになった若社長。

彼は見た目はイケメンだしやれば出来るタイプなのに、何故か仕事をしない。

中身はまるで高校生だ。いつも遊んでばかりいる。

しかもそんな彼に、誰も注意らしい注意ができないので、常にやりたい放題。

だからあたしが、呼ばれたりするのだ。

本人を前にすると絶対に言えないけれど、この「お子ちゃま」に。



「…失礼します」



その後ようやく社長室に到着すると、あたしは早速ノックをした。

声をかけると中から声が聞こえたので、静かに中に入る。

…とはいえ、これでも一応は社長だし緊張くらいはする。ほんの少しだけど。

あたしが中に入ると、社長は真剣にパソコンと向き合っていて、チラリとあたしに目を遣ると、「あ、りー子ちゃん」と笑顔になった。

石田りな子。それがあたしの名前。

同じ会社の皆からは「石田さん」や「りなちゃん」と呼ばれているが、この社長だけは「りな子は言いづらい」とかでそう呼ばれるようになった。

あたしが入口付近に立ったままでいると、社長は「こっちおいで」とにこやかに手招きをする。

そしてそう言って、また真剣に向き合うパソコン。

端から見れば真面目に仕事に取り組んでいる素晴らしい社長に見える。

だけどあたしはそんな彼の行動を、疑いながら近づいた。

社長の目の前まで足を運ばせると、社長が「隣にきてよ」と甘い顔になる。イケメンだからって調子に乗ってるに違いない。

あたしはそんな社長の言葉を聞くと、言った。



「…ですが社長、今は仕事中で」

「え、社長の言うことが聞けないの?」

「…」



社長はあたしの言葉を遮ってそう言うと、眉間にシワを寄せてあたしを見遣る。

…何という言葉の返し方。

彼はこういう時だけ自分の地位を利用する。

ってかそれ、俗に言うパワハラとかじゃね?

あたしは内心そう思いながらも、



「…これは失礼致しました」



と、社長の言う通りに彼の隣に立った。

…しかし。

立った瞬間、ビックリした。

社長がさっきから真剣に見つめていた画面を見て。



「…仕事中に何ていかがわしいものを見てるんですか」



あたしはそんな彼にそう言うと、画面から社長に目を移す。

しかし彼はあたしの言葉を特に気にも留めず、嬉しそうに言った。



「可愛いでしょ!?りー子ちゃんが着たらどんな感じになるのかなぁって想像してんの今」

「いやいやしなくていいですそんな想像!」



ってか仕事してくださいよ!

あたしはそう言うと、部下として社長を一喝する。

社長はいったい何を見ていたのかと言うと、パソコンのインターネットで女の子の水着画像を検索して、画面いっぱいにずらりと並べられたそれを真剣に見ていたのだ。

最っ悪だ。しかもそれをあたしで想像していたとか。

まぁわかってたよ、社長はパソコンと真剣に向き合っていてもそれは仕事をしているわけじゃないってこと。

…わかってたけどさぁ。
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