打って、守って、恋して。

そもそも、道内に野球のクラブチーム自体あまりない。
本当に数少ないから、トーナメントにもならず総当たり戦を行うらしい。
試合をやる数日間はちょうど平日で、私も仕事を休めなかったので観戦は行けないのだが。
凛子は無理やり休みをとって、一日だけ行くことができるらしいので羨ましい。

勝敗は報告するわね、とブレンドコーヒーをぐびっと飲んだ凛子は携帯でスケジュールを確認してため息をついた。

「日本選手権よりも、気がかりなのは来月のドラフト会議よ」

「ドラフトってプロ野球の?」

「そー!栗原がどこの球団行くのか不安で!」

なにやら携帯の画面を操作してぐいっと私にそれを押しつけてきた。
そこには、栗原さんの投球中のフォームを撮った写真があり、下にスクロールするとドラフト予想が書いてある。ネットで見つけたなにかの記事らしい。

「えーっと、どれどれ。……都市対抗やアジア競技大会で活躍を見せた北海道・山館銀行のエース栗原和義を虎視眈々と狙う四つの球団。北は北海道、南は福岡まで、注目の右腕との交渉権を獲得するのはどの球団になるのか。最速155キロのストレートとコントロール抜群のチェンジアップを武器に、ドラフト会議で話題になる選手の一人になることは間違いない─────はぁ、すごいね」

開いた口が塞がらないとはこのことかと、そっと携帯を戻すと、凛子は唇を尖らせて「四球団競合なんて困るのよ!」と息巻いた。

「絶対に地元球団に来てくれないと!栗原を見る機会が減っちゃうものーーー」

「そうか。プロ野球の球団ってたくさんあるんだもんね。いくつあるの?」

「……え?そこから?」


初歩的な知識から欠落している私には、プロ野球の世界はまったく分からない。
野球の知識はなんとか追いついてきたけれと、社会人野球のことだってまだまだ知らないことだらけだし、プロ野球のことなんて意識もしていなかった。
あえて言うなら、子供の頃に毎日のようにテレビ中継をしていた有名な球団くらいなら知っている程度。

栗原さんがプロ入りすることになったら私も凛子に倣ってプロ野球についても勉強しなくちゃ、と決意したのだった。







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