打って、守って、恋して。

凛子の予想通り、山館銀行は日本選手権の地方大会を順当に勝ち進み、全勝で北海道代表になった。

あまりにもあっさりと決まってしまって、でももう十年ほど連続で全国大会へ出場していると聞いて、ああそうなのかと納得した。
やまぎんは本当に強いチームなんだなと。

都市対抗野球大会でも優勝したのだから、当然と言えば当然なのかもしれないけれど。


地元紙には『日本選手権全国大会行ってこいやまぎん 頂点獲れるぞ』なんて載って盛り上がっていた。
もうやまぎんの顔とも言える栗原さんや主将のインタビューなんかも掲載されていて、まだ先の十一月に強い期待が寄せられているのがよく分かった。



地方大会でもいつもの「二番、セカンド」で出場していた藤澤さんが、今、私の隣にいて、前を向いて運転しているのだから信じられない。


「石森さんは紋別って行ったことあります?」

ふと話しかけられて、えっ、と振り向く。

「あ、一応……子供の頃に行ったことあるみたいです。あまり記憶にはないんですけど、家族で流氷を見に行ったらしくて」

「なんか、俺の趣味の押しつけみたいですみません」

「いえ。釣りなんてしたことないですから、けっこう楽しみにしてきたんですよ」


今日は彼の趣味だという釣りに誘われたのだ。
初めて食事以外で会うから正直ドキドキしているのだが、彼はいたっていつも通りの表情である。

日本選手権の地方大会も終わって全国大会まで一ヶ月空くので、比較的休みをとれるらしい。藤澤さんから今度の日曜日に釣りでもどうですか、と電話をくれた。
聞けばいつも紋別のキャンプ場で釣りをしているそうで、今日もそこへ向かっていた。

釣りに運動音痴は関係ないだろうから、そこだけは助かった。


絶好の釣り日和というか。
見事に空は秋晴れで雲ひとつなかった。

< 158 / 243 >

この作品をシェア

pagetop