打って、守って、恋して。

二球目、空振りを誘うような低めアウトコースを狙ったチェンジアップ。際どかったけれど、ボール判定。
旭くんはあっさりと見逃した。

はぁぁ、とため息をついて、正座した脚をもぞもぞさせながら背筋を正す。


三球目、高めに浮かんだ153キロのストレートを旭くんが強く打ち抜く……が、ファウル。


もう二人は笑ってはいなかったけど、でも全身から醸し出される『楽しい!』の空気。
旭くんもこういう顔で野球するんだな。
いや、きっと元々はこの気持ちで野球をしていて、それが今に繋がっているのだ。

野球が楽しくて楽しくて仕方ない、だからプロ野球選手になりたいというシンプルな気持ち。


四球目を投げるために栗原さんがマウンドで構える。
ふぅ、とすぐそばに聞こえてきそうな大きな息をひとつつき、その端正な顔でまた小さく笑った。
彼もまた、楽しくて仕方ないといった顔だ。


『栗原と藤澤は、どうやらいい関係性のようですね。二人の表情が物語っています』

実況の言葉に、私は誰もいない部屋でウンウンとうなずいた。
私もそう思います、本当に。


素早いクイックモーションで、栗原さんが四球目を投げた。
もしかしたら空振りした一球目のような凄まじいストレートで挑んでくるのかと思っていたのだが。

やはり、正真正銘の勝負。

勝ちにこだわった、栗原さんに軍配が上がった。


得意のチェンジアップで旭くんのインコースを突き、彼はくるりと一回転するように空振りした。


『三振です!バッターアウト、そしてスリーアウトです!』

『なかなか面白い対戦でしたねー』


空振り三振した旭くんは、バットを左手に持ってゆったりとした足取りでベンチへ戻っていく。
一瞬、チラリとあちらのベンチへ駆け戻る栗原さんを見た。彼もまた旭くんを見ていて、二人はにこっと笑い合っていた。



この対戦に胸をときめかせていた人は私くらいなのかもしれないけど。
これからも続いていく二人の対戦は、毎打席きっと心がソワソワして大変だろうな。


……まだドキドキしている胸を落ち着かせながら、やっとのことで正座していた脚を崩した。
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