打って、守って、恋して。
藤澤さんと栗原さんのテーブルにはいくつかすでに料理が届いており、焼き鳥や天ぷら、唐揚げなどをつまんでいる状態だった。
二人ともビールを飲んでいたらしく、いきなり隣の席の女に話しかけられて驚いた顔を見せていた。
メニューなんて見ていなかったくせに、しれっと聞いてしまう沙夜さんの女優ぶりがすごい。
すると栗原さんが嫌な顔ひとつせずにすぐにメニューを開き、沙夜さんに見えるように指さしてくれた。
「これです、豚キムチ天ぷら」
「豚キムチ?美味しいんですか?」
「まあまあですね、つまみにはいいかと思います、辛いのがお好きなら」
栗原さんは、球場で見るよりもさらに話しかけやすい空気感のある人だった。
スポーツマンくさくなくて都会的なビジネスマンみたいで、営業マンなら虜になった女性たちがこぞって契約してくれそうな爽やかさも持っている。
ユニフォームを着ていなくても、気さくだしモテそう。
一方の藤澤さんは、こちらを一切見ずに唐揚げを食べている。
「辛いの私は好きだけど、柑奈ちゃんは?」
普通に話を振ってくる沙夜さんに、一瞬たじろいだもののなんとか言葉を絞り出した。
「私も食べれます……、すっごい汗が吹き出しますけど」
しまった!なんか「汗」とかマイナスなイメージになりそうなことを言ってしまった。
焦ったけれど、それを栗原さんが笑って拾ってくれた。
「あ、俺もそうですよ。辛いの好きなんですけど、毛穴が開く感じで汗かいちゃうんですよ。でもそれが良くないですか?」
「はい、それでキムチ鍋もよく食べちゃいます」