打って、守って、恋して。


「……この状況はいったい何?」

急な誘いにも関わらず来てくれた沙夜さんが来るなり、私はテーブルに額をゴツンとぶつけながら「ありがとうございます!」と頭を下げた。

ちゃっかり彼らが入店した居酒屋に私も続けて入り、探偵のように「ここにいます」と沙夜さんに送りつけ、自然に彼らの隣のテーブルをゲットしてしまった。

……あぁ、凛子はどうしてこんな絶好のチャンスを逃しているのだろうか!


「今ですね、お話できる状況にないのでラインしますね」

「え?柑奈ちゃん、私あなたの目の前にいるよ?」

いそいそと携帯で文を打ち始めた私に、冷静に切り込む沙夜さんは、隣に例の彼らがいることなんて気づきもしない。
それは当然のことである。

社会人野球をしている人のことなんて、相当コアなファンしか分からないはずだ。
私だって最近までそうだったのだから。


とにかく隣に座っている二人組の男性は、私が最近ハマっている社会人野球のやまぎんの人たちであり、ほぼストーカー的についてきたという内容のラインを沙夜さんに送りつける。

無言でそれを読んだ沙夜さんが、横目でチラリと隣のテーブルをうかがったのが見えた。
おもむろに携帯を操作し始める。

『片方ものすごいイケメンなんだけど、かんなちゃんは彼のファン?』

ブブブ、と携帯が震えて沙夜さんからメッセージが届く。
目の前にいるのに、携帯でやりとりする怪しい私たち。

即座に首をブンブン横に振ると、沙夜さんは目を細めて右手でオッケーマークを作ってうなずいてくれた。
一度会社のパソコンで翔くんが栗原さんのことを検索しているのだが、彼女の記憶には残っていないらしい。


そして、彼女は信じられない行動に出たのだ。

「すみません、その天ぷらってなんの天ぷらですかー?すっごく美味しそうだけどメニューに載ってなくて……」

あろうことか、さらりと話しかけた!

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