打って、守って、恋して。
東京ドームにまで応援に行っておいて、知らないことが多すぎるとでも思ったのだろう。
藤澤さんの素朴な疑問が投げかけられると同時にわりと近い距離で見つめられて、この状況ってファンからしたらとても贅沢だなと考えてしまった。
私の隣では沙夜さんと栗原さんが、地元出身のお笑い芸人の話をしていて盛り上がっている。
彼らは野球の話なんかしなくても会話が成り立つけれど、そういえば私と藤澤さんは野球の話をしないと続かないような気もした。
ふと行き着いた考えに凹みながらも、「二ヶ月も経ってないです」ともごもごと答える。
「やまぎんどころか、野球についてほとんど何も知らなかったんです。だから、まだ素人同然です。それなのに知ったかぶって色々聞いてしまってすみません」
「いや、そうじゃなくて」
慌てたように首を振った藤澤さんは、誤解させたかなとつぶやいた。
「最近野球を知ったような感じに見えなかったので。そこそこ詳しい方だなと思って見てました。……で、なんの話してたんだっけ……」
「えーっと、冬の練習!」
「あー、うちの銀行は専用の室内練習場があるので、冬はそこでやってます。他の時期は専用グラウンドで練習してますね」
山館銀行って案外ものすごいところなのでは?
専用のグラウンドに専用の室内練習場を完備しているとは!
それならこうして野球が上手い人たちが集まるのも納得できた。練習するには最適なところだからだ。
藤澤さんが携帯をしまう姿を眺めて、残念な気持ちに包まれる。
どうしてこんなに残念なのか、身を乗り出していた彼が元に戻ったからなのか、それとも彼の練習を見に行けないからなのか、それは自分でも分からなかった。
「私……練習見学は、たぶん行けないです。残念……」
「え?」
「仕事、抜け出せないと思うので。平日休みもないし、車もないし……」
「本当に退屈ですから、いいんじゃないですか」
「何時間でも見てられる自信あります!いくら打球が飛んでくるところを予測しているからってあんなにサクサクとれるなんて、すごいですよ!」
またしても前のめり気味に褒めちぎったので、藤澤さんはなんだか恥ずかしそうに目をそらしていた。
小さな声でありがとうございます、と言いながら。