打って、守って、恋して。
「予測が外れることってあるんですか?こっちに来ると思ってたら、あっちに行った〜、とか……」
「ないです。どこに飛んでくるかは、打者が打った瞬間に分かります」
わりときっぱりと彼が言い切ったので、さすがにそれには驚いて私は即座に「打った瞬間に?」と返した。
「はい。打った瞬間にここに来るなっていうのは分かるんで、気づいたらそこに向かって動いてる感じですね。特に東京ドームみたいな人工芝は、外れなしで分かります。だからあとは、自分の動きが打球に追いつくかどうかだけです」
「人工芝?」
「野球場には天然芝と人工芝って存在しているんですよ。天然芝だとたまに打球のバウンドが不規則に変わることもあるので、一応あえて判断を遅らせて取りに行くようにしてますけど」
普通の野球選手って、二塁手って、こういうものなの?
藤澤さん以外の二塁手を知らないから、彼が言っていることが普通なのかすごいことなのか分からない。
目をぱちくりさせていると、藤澤さんはふいに思い出したように
「そういえば、ホームラン打てなくてすみませんでした」
と言い出した。
「あっ!そういえば!忘れてました!」
言い出しっぺの張本人がすっかり忘れていたのだからお粗末である。
優勝できたのだから、ホームランなんかどうだっていい。
「あんなの忘れてください!」
「延長戦に入って満塁の場面で打席に立った時、チラッとホームランを狙ってみようかと思ったんですけど」
「そんな余裕あったんですね……」
「監督のサインに背く勇気が出ませんでした。なので、賭けは俺の負けです」
「い、いや賭けだなんて」
そんなつもりで言ったんじゃなかったのに、なんだか申し訳ない。