打って、守って、恋して。

私たちは今度は並んで歩き出す。
とても自然に、適度な距離はあいているがそれでもじゅうぶん幸せなほど、気持ちが宙に浮きっぱなしだった。

「瓶で買うとウン万円ですから、一杯何千円かな」

「お店で飲むと手間賃かかるから、原価よりはるかにとられそうですね」

「そんな高級なお店、行ったことないです……」

「俺もないですよ」

こうして歩いていると、本当に彼は普通の会社員にしか見えない。
栗原さんだったらそのへんの男の人たちよりかなり背が高いし、待ち合わせでもしたらすぐに分かるほど目立つだろう。
でも、藤澤さんは背丈も普通だし、野球をしているようには見えないくらい普通の体型。スーツを着ているから着痩せしているのかもしれないけど、野球選手にしては細身の方ではないだろうか。

そのあたりを歩いていても、彼だとすぐには気づけないかもしれない。


「優勝して、なにか変わりましたか?声かけられたりしませんか、窓口で」

気になっていたことを尋ねると、彼は少しだけ考えてから「どうかな」と眉を寄せた。

「ごくたまに、優勝おめでとうとか声かけられたりはしましたけど。それよりも多いのは、栗原さんはいますか、ですね」

「えっ、そうなんですか?」

「そういう人は俺がセカンドだって気づいてないですよ。窓口に名前も出てますけど、完全にスルーです」

「……それならいいか」

「え?」

「なんでもないです」


ついついこぼれてしまった笑みをごまかしていると、バッグに入れていた携帯が鳴り出した。
とにかく携帯に着信があろうとメッセージが来ていようとなかなか気づけないことが多いので、仕事中と公共機関に乗る時以外は大きめの音が鳴るように設定しているので、今回はすぐに気づいた。

素早く携帯を確認すると、『凛子』の文字。

「電話だったらどうぞ」

「すみません、ちょっとだけ」

藤澤さんに促されて、電話をとった。

その電話をとったのが、間違いだった。
まさかこのまま二人で飲みに行けなくなるとは。選択を間違えると、後戻りできない。







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