Break
彼の最優先は、あの子。次に仕事。
3番目は彼が飼っている鼻がぺしゃんこの犬。
その次は男友達で――――
なんて、とりとめのないことを考えながらグラスに口をつけ、店内に流れるBGMに耳を傾けていた。
金曜日だっていうのに、やっぱり客が少なくて、人の話し声もあまり聞こえない空間。
ここだけ時間の流れが遅くなっているみたい。
そこに、パタパタと慌ただしい足音が混ざり、振り向けば、胸のつかえが取れたような表情の彼が戻ってくる。
「あのさ、ごめん。ちょっと俺」
今にも踊りだしそうな笑顔で鞄を掴む。
ああ…本日のお役御免ってことね。
「…よかったじゃない。せめて奢るくらいの誠意は見せてほしいところだけど」
あのあとに続く言葉を聞きたくなくて、可愛いげのない返事で自分から話を遮った。
今までにもこんなことはよくあった。
…仕方ない。わたしは彼に呼ばれてここにいるだけなのだから。
「当たり前だよ。まだ飲んでいくだろ?えっと…ごめん。今、手持ちがあんまりない。友達呼ぶなら足りないかもしれないな。足りなければ、また月曜にでも言って」
早口でそう言いきると、財布から1万円札を出し、じゃあまた、なんて言うこともなく、颯爽と飛び出していった。