死にたい君に夏の春を
「このガキ、なんで……」


男は咄嗟にテーブルの上にあったポケットナイフを掴む。


僕は鉄パイプを強く握り直し、ゆっくりと男の方へ近づいた。


「来んなよ……来んなよ!!」


同時に2人は振りかざす。


切りかかろうとしたナイフに鉄パイプが直撃し、男の手から落ちて床を滑る。


その隙をついて、僕は男の腹に向けて思いっきり鉄パイプを振る。


効果は絶大で、内臓が抉られたような悲痛なうめき声をあげる。


そして床に崩れ落ち、咳き込む。


僕は頭に向かって振り下ろそうとする。


しかし、男は近くの折れた木製バットでそれを受け止める。


力ずくで鉄パイプを押し、それを横にかわして、僕の側頭部を木材で殴打する。


僕はまた気を失いそうになり、ゴミ袋の上に倒れる。


その間に男は九条のところへ駆け寄り、縛られた腕を引っ張る。


「おい歩け!」


されるがままに、彼女は男について行く。


振り返り、倒れたままの僕を見て、悲しそうな目をする。


そんな顔するなよ。


お前は、無邪気に笑ってる表情が一番似合ってるんだから。


ズボンの隙間から、拳銃を抜き取る。


そして、安定しない視線の標準であるにもかかわらず、僕は構えた。


目が頭から出た血で滲んであまり見えない。


けれど、今度は確実に撃って、殺してやる。


この殺意は、誰にも止められない。


僕は男の後ろ姿に向かって、その指を躊躇なく、引いた。
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