死にたい君に夏の春を
走っていた。
ひたすら、何も考えずに。
これで、彼女と一緒に走るのは何回目だろうか。
2人で肩を組んで、途中転けそうになりながらも走った。
彼女はただ虚ろな目で、足だけを動かしていた。
挫いた足や、切られた腕や、殴られた頭。
全部痛いけれど、九条の傷に比べたらこんなもの大したことなんてなかった。
どれだけ走っても、ビルに着かない。
ビルって、こんなに遠いところだっただろうか。
もう何時間も走ったような気分になった頃、ようやく見覚えのある建物に着いた。
ほとんど九条を引きずって階段を上がっていく。
そしていつもの3階で、倒れるように跪いた。
彼女は目を閉じて、床に横たわる。
「九条……」
僕はそっと、彼女の頬に優しく手を当てる。
それに応えるように、彼女は手を重ねた。
ゆっくりと目を開け、僕を真っ直ぐ見る。
「……待ってた」
その目から、涙が伝い落ちる。
「ごめん、遅くなって」
「ううん。信じてたから」
彼女の手が、僕の手に絡まる。
「……こんな僕を、信じてくれたのか」
「だって、高階くんは、頼もしいからね」
その言葉で、全てが救われた。
僕がいたから、彼女は助かった。
僕の勇気が、彼女を救ったのだ。