死にたい君に夏の春を
静かに仮眠室への扉を開け、中に入る。


気持ちよさそうに寝ている老人以外に、人はいない。


その人の体に掛けてあるタオルから、ちらりと手首が見えた。


そこには鍵が縛ってあるゴム。


まだ寝ている。


起きる気配もない。


大丈夫だ、僕ならできる。


意を決して、そっと手を差し伸べた。


「ん、うーん」


ビクッ、と咄嗟に手を引いた。


老人は寝言を言っているだけで、起きてはいなかった。


安心して、はぁ、とため息をつく。


そしてまた、手首の方に手を近づけた。


骨と皮しかないような細い手から、鍵をゆっくり抜き取る。


するり、と盗ることが出来た。


安堵し、同時に快感をも覚える。


なんだ、以外と簡単じゃないか。


怪しまれないようにしながら、急いで仮眠室を出て、ロッカーへと向かう。
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