死にたい君に夏の春を


ビルの3階、いつもの広い部屋。


そこを覗くと、散乱した長机のひとつにパイプ椅子に座って突っ伏したセーラー服の少女。


九条である。


「……なにしてんの?」


返事はない。


寝ているのだろうか。


そう思ってゆっくり近づいて行く。


すると。


「無理……」


微かにその伏せた顔から声が聞こえた。


「なにが?」


「勉強……無理……」


「は?」


僕は彼女の腕に敷かれた物を見る。


これは……計算ドリル?


「なんでドリルなんかやってんの?」


「……やんなきゃって思って」


いや、そう思い立ったまでの経過について聞いているのだが。


彼女はなにか物事をやる時、いつも急すぎるのである。


だから大体状況が飲み込めない。
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