死にたい君に夏の春を
「別に……。そんなことないって」


「そんなことあるよ。今日、初めて算数が楽しいって思えたもん」


それは九条の気力と根気があったから。


僕は何もしていない。


「九条の生まれ持った才能だよ」


「才能?」


「運動神経もいいし、地頭もいいし、勇気もある。きっと将来何にでもなれるよ」


そう言うと、一瞬、彼女の目が暗くなったように感じた。


「……死んじゃうから、何にもなれないけどね」


はっ、と気づく。


そうだ、そうだった。


この夏休みが終わったら、彼女は死んでしまう。


何故こんなにも大切なことを忘れていたのだろう。


急に現実に突き落とされたようで、気持ちが沈む。


二人とも沈黙が続く。
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