死にたい君に夏の春を
夜の11時、僕らはビルの外で待ち合わせをした。
学校に行くには準備が必要だと思い、僕は家で夕食を済ませ、懐中電灯を2つ用意してから集合する。
道は暗くて、頼れるのは街灯と懐中電灯の光だけだ。
廃墟のビルは電気が通ってないので、さらに道が暗く感じる。
僕はふと思った。
「夜に会うのはある日以来だね」
九条と初めて話したあの日。
成人男性を殴り倒すところを目撃してしまったあの時から、僕の日常は崩れた。
「うん。もう懐かしい」
僕と彼女は学校に向かって歩き出す。
ふと、彼女が持っている黒くて薄い筆箱のような物に目が止まる。
「なにそれ?」
「これ?学校行くのに必要かなって思って」
「答えになってないってば……」
まぁいい、彼女には彼女なりの考えがあるのだろう。
なんだか浮かれたような顔をしている。
どうやら学校に着くまで秘密にしておきたいらしい。