死にたい君に夏の春を
ガチャ


気づいたらもう、彼女は鍵を開けていた。


「意外と簡単だったよ」


ひと仕事終えた九条は、ピッキングツールを袋にしまいながらそう言う。


「……鍵を開けること自体、簡単な行為ではないと思うんだけれど」


そして懐中電灯を取り出し、彼女は重い扉を開けた。


中を見てみるとそこは来客用の玄関で、外よりもさらに暗さを感じる。


懐中電灯を付けなければ、窓から射す微かな月の明かりしか頼る光がない。


壁に飾られた大きいただの風景画が、なんとなく薄気味悪い雰囲気を漂わせている。


昼はいつも騒がしいが、こうして夜に来ると別の建物のように見えなくもない。


そっと僕らは中に入り、音を立てないように静かにドアを閉めた。


彼女は冷静な分析してこう言った。


「たぶん警備員はこれから4階まで行くと思う。2階以上はちょっと危険かも」


警備するために、各階をくまなく見回るのだろう。


僕は言う。


「じゃあ1階の職員室に行ってみる?そこだと色々面白いものとか見つかりそうだし」


「そうだね」


そして懐中電灯を付け、近くにある職員室に向かっていった。
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