死にたい君に夏の春を
職員室はやはり鍵がかかっていた。
あたりまえのように九条がピッキングをして、鍵を開ける。
当然、誰もいやしない。
暗い職員室は、なんだか異世界のようだ。
幽霊とかそういうのは怖いと思う方ではないのだが、ここまでの静けさで暗いとやはり不気味である。
そういえば、誰もいない職員室をこうやってまじまじと見るのは初めてかもしれない。
「テストの答えとかないかなー」
だがそんな僕とは違って、九条は全く恐れず呑気なことを言って先生の机を漁りだす。
「お前テストは受けないだろ」
「私はいらないけど、高階くんは答えとかあって嬉しくないの?」
「別に、勉強した方が早いし要らないかな」
「うわ、なんかむかつく」
むかつく発言をして悪かったな。
事実、答えを丸暗記するより自分で勉強したほうがやりやすいのである。
元々授業はちゃんと受けているから、本当は家で勉強する必要もあまりない。
ただ暇だから勉強しているだけなのだ。
そして僕は彼女と同じように、机を開ける。
そういえばこの辺りはクラスの担任の机だったな。
そう思って、上から順に引き出しを開けていく。
どれもどうでも良さそうな資料ばかりである。
しかし1番下の引き出しには、いかにも重要そうなファイルがあった。
見てみるとどうやらクラスメイトの個人情報が入っているようだ。
1人ずつ事細かに、住所や電話番号などが書かれている。
「なんか見つけた?」
遠くから九条が僕を呼ぶ。
「えっ、いや……。なんにも」
僕はこっそり個人情報の紙を1枚抜き取って、ズボンのポケットに入れた。