死にたい君に夏の春を
「そろそろ帰ろうかな」


僕は足をかばいながら立ち上がった。


さっきまで麻痺していた膝が、今になって痛み出す。


下半身はほぼ血だらけになっていて、僕でも見ていられない痛々しい有様だ。


「そんなんで帰れるの?」


「まぁ、なんとかなる」


そう言うが歩こうとする度にズキズキと痛む為、なんとかなりそうもない。


家に帰る頃には気絶してそうだ。


「……手当しようか?」


「え?」


「ついでに朝まで寝ていきなよ。その足じゃ帰れないでしょ」


あ、朝まで?


「でもそれ……」


それじゃあ、僕と九条が一緒に泊まることになるじゃないか。


それは少し……なんか、気が引けるというか。


「修学旅行みたいじゃない?行ったことないけど」


「確かに修学旅行と思えば……って、そういう問題じゃないだろ」


男女が二人きりで同じ屋根の下で寝るなんて、そんな不埒極まることをしてはいけない。


「ダンボールとバスタオルぐらいしかない寝床が嫌なの?」


「いやそうじゃなくて……。お前それ、どういうことか、わかって言ってるのか?」


「どういうこと?」


…………。


なんだか必死になっている僕が馬鹿らしくなってきた。


彼女の邪心なき眼を見ていると、自分が汚くなったように感じる。


決して邪なことを考えている訳では無い。


中学生男子なんだからしょうがないのだ。


だがきっと、純粋無垢な彼女に何を言っても、僕の気持ちを理解することはないのだろう。


正直言って、この悲惨な状態で家まで帰れる自信が無い。


ここは耐えて、とりあえず歩けるようになるまで寝て回復する方が賢明な判断である。


そう自分に言い聞かせるのだった。
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