死にたい君に夏の春を
夜中にビルの中に入るのは初めてだ。
窓が少ない分明かりが入ってこず、学校よりも怪しい雰囲気が漂っている。
「そこ、座ってて」
そう言われて、僕は1つのパイプ椅子に腰掛けた。
九条は水の入ったペットボトルやタオル、消毒液、絆創膏などをビニール袋から取り出してきた。
消毒液と絆創膏、あるんだ。
てっきり水で洗い流すだけかと思っていた。
意外としっかりしたものを持っている。
そして彼女は僕の目の前にしゃがんで、ペットボトルキャップを開ける。
「これぐらいしか出来ないけど、我慢して」
彼女は水を少しずつ僕の膝にかけた。
ビリビリと痛みが走る。
ついた砂と固まった血がだんだんと取れてきて、傷が露わになる。
思ったよりも抉れていて、惨たらしい。
そして血をタオルで拭き取り、消毒液をかけた。
意外と優しい処置に、むず痒い気持ちになる。
またタオルで消毒液を拭いて、最後に大きな絆創膏を膝に貼る。
「はい、できた」
「……ありがとう」
彼女は治療に使ったものを戻しに行く。
「なんか、慣れてる?」
九条の一連の動作には無駄がないように思えた。
道具の用意もいいし、何故だろう。
「よく、自分の傷手当てしてるからかな」
ああ、そういえば、そうだった。
虐待といじめを同時に受けている彼女だ。
傷の一つや二つ、自分で処置してしまうのだろう。
僕から振った話題なのに、なんだか急に悲しい気分になってきた。