死にたい君に夏の春を
九条はまたなにか取り出してこっちに来た。


「ハンカチしかないけど、これで固定するね」


そう言って僕の靴を脱がせた。


小さいハンカチを足首に巻いていく。


ふと、彼女の首元に目が止まった。


紫色のアザがまだ残っている。


前は目を逸らしてしまったけれど、今なら真っ直ぐ見ることができる。


僕の擦り傷や捻挫より、よっぽど痛そうだ。


そっと、彼女に手を伸ばす。


「高階くん?」


急に九条が顔を上げたので、すかさず手を引いた。


「い、いや。あの、楽になったよ。ありがとう」


「うん」


何をしているんだ僕は。


恥ずかしさについ顔が熱くなる。


「じゃ、寝よっか」


「寝っ……!?」


さっさとタオルを敷いたり寝る準備を進める彼女。


その光景を慌てながらも、言葉が出ずただ見ることしか出来ない僕。


どう見ても二人分のスペースがあることに驚きを隠せないのだが。


「ちょっとまて、と、隣で寝るのか?」


「うん?だめ?」


「僕は……そうだ、屋上で寝るよ。だから……」


「え、やだ」


えぇ。


やだって。


九条ってそんなこと言う奴だったっけ?


「別に同じ部屋で寝る必要ないだろ?」


「一緒の部屋は嫌なの?」


「別に、嫌って訳じゃ……」


嫌じゃないならなんなんだと、自分にツッコミたくなる。


「じゃあいいじゃん」


地雷を踏んでしまったような気持ちだ。
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