死にたい君に夏の春を


何時間も考え込んでいると、脳が疲れてきた。


だんだん瞼が重くなってくる。


やっと寝られそうになったその時、隣から九条の声が聞こえた。


「う……うぅ……」


嗚咽のようなその寝言。


とても苦しそうで、泣いているようだった。


激しい歯ぎしりとともに、呼吸も荒くなってくる。


そして、とてもか細い声で。


「……たすけて」


そう言った。


たすけて。


そのたった4文字に、彼女の今までの苦悩と痛みが込められている。


いじめのことは、学校で全て吐き出したように見えた。


だが彼女には、まだ父親という最大の敵がいる。


毎晩毎晩、殺される恐怖を味わいながら寝ていたと思うと、胸が苦しくなる。


同じ部屋で寝ることを強要したがっていたのは、1人が嫌だったからなのか。


かわいそう、なんてもんじゃない。


こんな彼女を、僕が助けてあげられるだろうか。


手を目一杯九条の方へ伸ばす。


今ここで頭を撫でてあげられたらよかったのに。


僕らの距離は、あまりにも遠すぎた。
< 89 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop