死にたい君に夏の春を
「あ、高階くん……」


苦しそうだった目が、ゆっくりと開いた。


「九条……!」


「私、大丈夫だから……。帰ってて、いいよ」


九条は咳をしながら、重い体を起こす。


「何言ってんだよ、熱が出てるじゃないか。帰れるわけないだろ」


「でも、いつも、自分で治してたから。高階くんは、ちゃんとその足、治療して」


こんなに熱が出ているのに、自分で治せるはずがない。


隙をついて立ち上がろうとする九条を引き止める。


「だから、大丈夫だって……」


「いいから黙って寝てろ!」


その言葉を遮るように言った。


自分でも驚くくらい、大きな声だった。


彼女も、そんな僕を見て目を見開く。


お互い困惑しながらも、近くに置いてあったペットボトルを持った。


「とりあえず水飲んで。絶対動くなよ」


僕はペットボトルキャップを外し、彼女に渡す。


九条は不満そうだが、それを素直に受け取りごくごくと飲む。


「……なんか、情けない」


飲んだペットボトルを見つめながら、そう言う。


「なにがだよ。病人なんだから普通だろ」


「……なんか、初めて君が頼もしく見える」


褒めてるのか貶しているのか。


どっちかわからないことを言うな。


「今までは頼もしくなかったか?」


「ううん、今日初めて気づいただけ。銭湯で逃げた時も、学校で落書きした時も、警備員に砂をかけた時も、君は頼もしかったんだね」


いつも助けられてばかりの僕がこんな風に思ってくれたなんて、嬉しい以外の感情が見つからない。


恥じらいのない言葉を聞いて、なんだか照れくさくなった。


「こ、氷。持ってくるから。ちゃんと寝てて」


そうして大人しく横になった九条を後にして、僕は部屋を出た。
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