死にたい君に夏の春を
家の扉を開ける。
鍵がかけていない。
父が帰っているのだろうかと、一瞬入ることをためらう。
しかし早く九条の所へ行かなければいけない。
こんなことを気にするほど時間はない。
意を決して家の中に入る。
狭いリビングには誰もいない。
安心して冷蔵庫のそばにある小さなクーラーボックスを手に取り、冷凍室の氷を入れた。
そしてタオルも数枚クーラーボックスの上に置く。
風邪には薬とスポーツドリンクも必要だ。
ビルへ氷を届けたら、コンビニに行く必要がある。
僕の部屋にある財布を取り出し、中を確認する。
3万ほど入ってる。
今まで使ってこなかった分だ。
これなら九条の食費やそれ以外にも使える。
財布をポケットに入れ、部屋を出る。
すると、突然トイレの水を流す音がして、目の前の扉が開く。
「…………」
父と目が合い、沈黙が続く。
僕は何も言わず目を逸らし、その人を通り過ぎようとした。
「……昨日、帰らなかっただろ」
思ってもみなかった父の言葉に驚く。
「何してたんだ?」
「お前には関係ないだろ」
今まで無いくらい、強い口調で言う。
その気まずい空気から、逃げるようにドアへ向かう。
父は無言のままだ。
僕のことなんてどうでもいいくせに、一丁前に父親らしいことを言いたがる。
でもそれ以上何をしていいのか分からないんだ。
そんな父親だから、僕はこんな風に育ってしまったんだよ。
僕はクーラーボックスを持って、急いで家を出ていった。