大江戸シンデレラ
「ちょいと、棒手振りさんっ」
通り過ぎようとしていた棒手振りに、美鶴は呼びかける。
棒手振りが「へぇ」と応じて振り返り、担いでいた天秤棒を下ろした。
なんとか、既の処で呼び止められた。
地面に置かれた左右の桶の中を、中腰になって美鶴が覗き込む。
「こっちのは九十九里で捕れた目刺し鰯の焼物でやす。そんで、こっちのは品川で獲れた貝の剥き身と、練馬村で採って切り干しにした大根の煮物でさ。
どちらもうちの嬶ぁが朝から腕によりをかけてつくったお菜でやんす」
早速、棒手振りがお菜を売り込んできた。
美鶴は思わず、生唾をごくり、と飲み込んだ。
今にも腹の虫が鳴きそうだ。
「二つともちょうだい」
あわてて袂から四文銭を何枚か取り出す。
——ひさかたぶりに、お菜にありつけなんし。
美鶴は、湧き上がってくる喜びとともにお菜を大事に抱え、いそいそと板塀の内に戻って行った。