大江戸シンデレラ

「返す返すも……そなたという者はッ。
しかも此度(こたび)は、我が島村の家の名を地に落とすつもりの狼藉かッ」

多喜はひさかたぶりに姿を見せたかと思えば、金切り声とも悲鳴ともつかぬ声で(わめ)き立てた。

美鶴はまったく訳がわからなかったが、とりあえず手にしていた箸を置き、

「も…申し訳ありませぬ」

と、いつものようにひれ伏した。


「やはり……表で(いや)しき行商人より自ら銭を出して買う()ておったのは……そなたであったか」

多喜は美鶴の前に並べられたお(さい)に目を走らせると、一転して地を這うがごとき低い声で憎々しげに云い捨てた。

——もしや、棒手振りからお菜を買うことは、「お武家」にとってあるまじき所業でなんしたか。

美鶴の肝が、すーっと冷えた。

——されども、なにゆえ、かように(はよ)う知られてしもうてなんし。

お菜を棒手振りから手に入れたのは、つい今しがたのことであった。

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