大江戸シンデレラ
とは云え——
「廓の妓」であった頃ならいざ知らず、「武家のおなご」となった今、初めて会うた男を名で馴れ馴れしく呼ぶのは、きっとはしたなきことであるに違いない。
美鶴が如何いたそうか、と目を泳がせていると、
「……では、仔細は後日ということにて。
しからば、これにて御免」
さっと表情を改めた広次郎はさように告げると、すっと踵を返し、あっさりと去って行った。
もともと、縁側の廊下に居住まい正しく立っており、女人である美鶴の部屋には一歩たりとも足を踏み入れていなかった。
「あ、あの……」
おずおずとした声をかけられた。
美鶴がそちらを見ると、縁側で控えるようにおさとが正座をしていた。
そのおさとが、がばりとひれ伏した。
「お嬢……いくら御新造さんのお云いつけとはいえ、今までとんだ無礼をして、誠にすまんこってす」