大江戸シンデレラ

突然のことに、美鶴はびっくりしてしまった。

「奉公人風情(ふぜい)御家(おいえ)のことに口を挟むのはご法度だってのは、重々わかっとるこってすが……」

おさとは緊張からか、つっかえ気味ながらも、それでも言葉を重ねていった。

「だけど、御新造さんの仕打ちがあんまりだもんで……でも、一緒にやらなきゃなんねぇし……
あたい、だんだんつらくなってきちまって……」

顔を上げたおさと(・・・)は、ぐすっと(はな)(すす)った。

今までまじまじと見ることはなかったが、丸顔でまだあどけなさを残す……美鶴とさほど変わらぬ歳のおなごであった。


「それに……このままお(さい)を喰わねえと……お嬢がいつか『江戸患い』になっちまうんじゃねぇかと、怖くなってきちまって……
そんなときに、上條さまが今日ひさびさにお越しになったもんだから……
御新造さんの目を盗んで、思い切って……」

広次郎が美鶴の居場所を知れたのは、おさとのおかげであったのだ。

道理で、あのような離れの納戸にまでやって来られたはずだ。
美鶴自身、今までおさと(・・・)以外のこの家の奉公人を目にしたことがないくらいだった。


美鶴はあわてて首を左右に振った。
言葉で表せないのが、もどかしい。

「あの……あたいはお嬢がどんなにお故郷(くに)言葉がひどかろうと、決して笑うことはねえんで……」

おさとが恐る恐るではあるがさように云ってくれて、美鶴は心底うれしかった。

されども悲しい(かな)、町家の出のおさと(・・・)の方が、むしろ武家の多喜よりも(くるわ)言葉に気づく(おそれ)があった。

「……ありがとう……おさとさん」

ゆえに、美鶴が云えるのは、かばかりだ。

——(はよ)うお武家の言葉が話せるよう、なりとうなんし。

強く、つよく思った。


「お武家のお嬢が、あたいらみたいな町家の(もん)に『さん』はいらねえ。
『おさと』と呼び捨てにしておくんなせぇ」

ようやっと、安心して話せそうな相手と出会えたと思ったが、すっと一線を引かれてしまった。

だが、仕方あるまい。
これからは「武家のおなご」らしく生きていかねばならぬのだ。

美鶴はこっくり肯いた。

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