大江戸シンデレラ

「さて……」

おさとは袖を引っ張り、その先で(うる)んでいた目元をすっすっと(ぬぐ)うと、

「急いでお茶を持ってくるんで、表で買ってきなすったお(さい)を食べておくんなせぇ」

明るく云って、立ち上がった。

——さようでなんした。

美鶴は納戸から持ってきたお菜に目を落とした。

——このままでは危うく「江戸患い」になるところでありんした。


「江戸患い」とは、野菜などが不足して足がむくんで痺れ、やがては心の臓が弱まっていくという「脚気(かっけ)」のことである。
歴代の公方(くぼう)(将軍)様の幾人かも患って、死に至らしめた怖ろしい病だ。

実は玄米に含まれる成分でかなり防げるのだが、精米の技に優れた江戸では白米を食しているがために患う者が多かった。
だから、養生のため諸国に下ると、自然と玄米を食するようになるので、病が軽くなる。

ゆえに、人々から「江戸患い」と称された。


「お嬢、これからはお菜が入り用なときには、あたいにお申し付けくだせぇ」

美鶴はようやく、棒手振りより買い求めたお菜を腹に収めることができることになった。

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