大江戸シンデレラ
刀根が、我がの女中を見遣る。
すると、すくさま茶が支度された。
「わたくしは手を抜くことはいっさいせぬが、案ずることはない。
そなたのことは上條の次郎さまから、よしなにと頼まれておるがゆえ」
刀根は喉を潤すためにその茶を飲みつつ云ったが、ぴんと背筋を伸ばしたその姿は崩れることはなかった。
——『上條の次郎さま』とは……広次郎さまのことなんしかえ。
美鶴も前に置かれた茶を取って口に含む。
とたんに、口の中いっぱいに甘い風味が広がった。
「町家の者から献上された物じゃ。本日のみでござるゆえ、よう味わって飲まれよ」
それは、日の光を極力遮って育てた茶葉を釜で炒って煎じた玉露だった。
最近、豪商など金のある者たちに人気の茶ではあるが、御公儀から奢侈禁止・倹約のお達しが出ているこの折には、たいそうな「贅沢品」であった。
吉原の廓であっても、大名や大店の主人などのかなりの上客でないと供されぬ代物だ。
「わたくしの生家は同心でござったが、長じてからはこの千葉の家に後妻として嫁する前まで、内与力の上條さまの御屋敷に召し抱えられて若さまお二人にお仕えしておったのじゃ」
刀根は、上條家の広之介と広次郎が幼い頃から世話をしていた「乳母」のような存在であった。
「そのまま上條さまでの御役目を全うするつもりでござったが、ゆくゆくは次郎さまが島村の御家の養嗣子となられるということで、上條の旦那様のお取り計らいにより、当家とわたくしの御縁が結ばれたのじゃ」
刀根としても、聞き分けの良い広之介と較べて我が手を焼かせた広次郎が、果たして養子先で養親とうまくやっていけるのか、心配でならなかった。
向かいに居を構えておれば、その動静にしかと目を光らせていられた。
ゆえに、島村の家の多喜にしてみれば、煙たくなるのは至極当然のことであった。