大江戸シンデレラ
「身請」するためには、親元に支払った負い目(借金)の残り全額およびそれに掛かる金利に、妓の格とその見世での稼ぎ具合によって決まる「身代金」を上乗せして、しかも一括で払わねばならない。
おそらく、数百両は覚悟せねばならぬであろう。
『それに、かようなことが奉行所に知れてみろ。先祖代々の与力の御役目が召し上げられるやもしれんぞ。
……兵馬、おめぇ、御先祖様に顔向けできるか』
兵馬は唇を、きつく噛んだ。
もし、御役目を召し上げられたら、この屋敷どころか組屋敷にも住めぬかもしれない。
家人を路頭に迷わすことになる。
また、松波と関わる御家にも何らかの障りがあるやもしれぬ。
兵馬一人の問題ではなかった。
お武家の御家に、おいそれと廓の妓を嫁を迎えるわけにはいかないのだ。
『さりとてっ……父上っ』
なおも、 兵馬は喰い下った。
そのとき、多聞の声色ががらりと変わった。
『諦めろ。どう足掻いても果たせぬ望みだ』
屹然とした声が部屋に響く。
有無も云わさぬ、一族郎党を預かる惣領の声だった。
『何故なら……おまえには、すでにもう決められた相手がおるからだ』