キンヨウビノヒミツ+彼女が忘れた金曜日+
「今日もね、飲みに行こうって言われたんだけど」

「ガツンと断れば?」

「すぐ後ろに居られたりするのは、びっくりするからやめてくださいって言ってるんだけど。ほら、毎日職場で会うからさ、あんまり言い過ぎるのもどうかなって。って、ごめんね。前橋君に言っても困るよね」

「いや、覚えとくから」

「え……」

「井上は嫌なんだろ?」

 井上は、困った表情のまま頷いた。

「じゃぁ、なるべく倉庫で栄さんと二人になんないように、外回り終わってからは気を付けて見とく。飲みも誘われて断れなかったら、俺も呼べば?」

 言っておいて、俺今月いっぱいで転勤だろう? と頭の中で冷静にツッコむ。だけど、少しはにかんで笑って「ありがとう」と言った井上に、転勤することを今切りだすことは、出来なかった。

「井上、彼氏いないんだっけ?」

「いないよ~。前橋君は?新しい彼女出来た?」

「出来ない」

 お互いに入社したころは遠距離の相手が居た。俺は2年位前に別れたけれど、井上はいつ別れたんだろう。

 何杯かグラスを開けながら他愛のない話をして、終電が無くなる前にと店を出た。
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