キンヨウビノヒミツ+彼女が忘れた金曜日+
狭い階段をヒールで歩くのを歩き難そうにした井上に手を差し伸べた後、そのまま手は繋いだままだった。

「あ、ポテチ食べたい」

 地下鉄の駅へと下る階段前で井上が足を止めた。コンビニに入ってお菓子を見た後、そのまま飲み物の冷蔵庫前まで足を運ぶ。

「前橋君、何飲む?」

 ……あれ?俺まだ一緒に呑むの?

「帰るんじゃなかった?」

「むー……もうちょっと飲みたい。ポテチも食べたい」

 なんだか井上のこのテンション、覚えがあるような気がするんですけれど? 先週とか。

「んー、家今あんまり片付いてないから。前橋君の家?」

 家に来るの決定なのかよ。なんなの。一定量以上飲むと壊れるの? つーか、井上はリミッターついてないの?

 ただ、このまま井上を一人で帰すのはなんだか危なっかしいような気がするのも事実だし。それに、もう少し一緒に居たいような気がするのは……否定はしない。

 同僚とどうにかなるのはめんどくさいし、上手くいっても行かなくても気まずい。そう思っているのは変わらないけど……。あと3週間しかないなら、それなら。 

 いいんじゃないの? ちょっと位気まずくなるような事があっても。

 自分の中にある迷いを打ち消すように、ビールの缶に手を伸ばした。
< 17 / 43 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop