あり得ない男と、あり得ない結末

「美麗、可愛いな」

「へっ?」

思わず間抜けな声が出た。阿賀野さんはいつものへらへらした笑い顔で、目尻のあたりを指さした。

「目が黒くない」

「なっ、あれはお化粧ですよっ」

「知ってるよ。あんなに濃く塗らなくてもっていつも思ってた。元が美人なんだし」

「な……」

何を言っているんだこの人は。
反応に困る。その褒め方って今までにされたことのない褒め方だし。

「だって、メイクはお店の人が教えてくれたんです。……お似合いですよって、ちゃんと言ってもらえたし」

「マネキンはみんなにそう言うだろ。まあ似合ってないとは言わないけど、目周りがきっちりしてるとキツイ印象だな。今の方が柔らかいっつーか、これなら遠山がお前を可愛いっていうのもわかるな、と」

「かわいいって……」

やめて。恥ずかしすぎて死んじゃいそう。
顔が熱くて、真っ赤になっている気がして、阿賀野さんのほうを向けない。

でも心配することなんてなかった。
「なあ」という声に顔をあげたら、阿賀野さんはそっぽを向いていたんだもの。

「こっちに大仏あるんだって。行ってみようぜ」

「はあ」

再び手首を捕まれて、連れていかれる私。
思い付きだけで、よくこんなに動けるなと感心してしまう。

初めてきた街で、行き当たりばったりな旅。
普段、計画書通りに動く私には、不安ばかりが先にたって心臓か落ち着かない。

だからこの感覚は違う。
これはいわゆる、吊り橋効果ってやつよ。慣れないことをしているから。

だっておかしいでしょ?
阿賀野さんにドキドキしちゃうなんて。
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