あり得ない男と、あり得ない結末
阿賀野さんとふたりでいたって話すことなんてない……なんていうのは杞憂だった。
だって彼は目に付くものにいちいち反応していくし、慌ただしくてちっとも落ち着かない。
だからだわ、こんなにあっという間に時間が経ってしまったのは。
だから、まだ帰るには早いなんて思ってしまうんだわ。
途中、外国人から道を尋ねられて困っているご夫妻に遭遇する。
英語は得意なので代ろうかと思った瞬間、先に阿賀野さんが話しかけていた。
ものすごく流暢というわけじゃないけれど、簡単な単語中心の短い文で話を進めていく。
ちゃんと通じ合っていたし、いつの間にか肩をたたき合うくらい親し気に話している。
すごいな、物おじとかしないのね。そういえば、この人外国を旅していたって言ったっけ。
やがて外国人の旅行者はお礼を言って去っていった。
「……バックパッカーって何をしていたんですか?」
興味を惹かれて聞いてみると、阿賀野さんは不思議そうな顔した。
「バックパッカーって別に職業じゃないからな? ただの旅行者の名称だぞ? 鞄担いで、ふらふらといろんな国を回ってるようなやつらのことだよ」
「旅行ならツアーとかでいけば安いじゃないですか」
「安いのは自力で行った方に決まってんじゃん。行き当たりばったりでさ。行った先で興味があることを突き詰めていくんだ。トラブルもあるし楽ばっかりじゃない。でも全部自分で選んでいるから楽しいぞ」