あり得ない男と、あり得ない結末
生き生きとした顔で言われるけど、私は想像しただけで胃が痛い。先の分からないことほど、怖いことはないと思うんだけど。

「……そういうの無理です。ホント」

「まあ、アンタはそうかもな」

さらりと言われて、なぜか胸がチクリとした。
突き放されたような気持ちになるなんて、なんだかおかしい。
別に突き放されたっていいはずなのに。阿賀野さんなんてもはや部署も違うんだから。
噛みついてやりたいような気分になって、ツンと澄まして言い返した。

「アンタって呼ばないでくださいます?」

「あーはいはい。……美麗」

「なんですか」

「じゃあお前の生き方だと何が見えるんだ?」

思いのほか、神妙な顔で見つめられて、私は答えに窮した。

「何って……あれですよ、その。安定した将来とか」

「将来ねぇ。今ここで事故にでも遭えばすぐ死ぬんだぜ? なのに将来が大事?」

「長期計画を考えられなければ、経営者になんてなれません。私はいつか、田中不動産を支えるひと柱になるんですから」

「だから親父が決めた相手と結婚する?」


阿賀野さんは真顔だった。いつもの軽い印象を与えるちゃらんぽらんな受け答えでもない。
狙いを定めた鷹のように、こちらを見つめる目には鋭さがあり、ひび割れをひとつでも見つけたら、私がまとう殻を一気に壊してしまいそう。
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