あり得ない男と、あり得ない結末
『反発してもいいと思うんだけど、今の子はおとなしいもんね。……変な世の中になったもんだわ』
不意に、思い出すのは葉菜さんの言葉だ。
あのとき、少し不思議に思ったんだ。娘が反発しないのはいいことだろうに、なぜ葉菜さんは違和感を覚えているのか。
反発しないということは、自分の世界を持っていないということだ。
親が作り上げた同じ世界観の上にいれば、気付けないから。
お互いに、理解しているような顔して譲歩しあって、争うことを避けることで、親子関係はうまくいってるなんて思い込んでいた。私は、親の庇護の中で満足していただけなのに。
「……モヤモヤする」
とはいえ、この年まで気づかずに来てしまえば、今更反抗の仕方だって分からない。
誰かに相談したいような気がして、ふと思いついたのは仲道さんだったけれど、やめておいた。
だって、何を相談したらいいかも分からない。
何でこんなに理性と感情が逆方向を向いているのだろう。
しばらくして、一時間半でセットしていたアラームが鳴る。
私はもう一度部屋を出て、ランドリーコーナーに行った。下着類やシャツが石鹸の香りになったことが嬉しくて、丁寧にたたんで部屋に戻る。
戻った部屋の中はやっぱり変わらず、奥の部屋で眠る阿賀野さんのシルエットが見える。
私はなぜだかそれが悔しくて、唇を噛みしめて「おやすみなさい」とつぶやいた。
ふすまを閉めて布団に入りこむ。
もっと安心した気分で寝れるかと思ったのに、ふすまの向こうが気になって、ちっとも眠れなかった。