あり得ない男と、あり得ない結末
「雨、やんだんですね」
外からは鳥のさえずりが聞こえる。
「ああ。雨のおかげで空が綺麗だ。美麗もひとっ風呂浴びてこれば? 気持ちよかったけど」
想像するとたしかに気持ちよさそうだけど、今日は昼までには帰らなければならないからやめておいた。
「私はいいです」
「じゃあ、着替えて飯食って出るぞ」
「はい」
Yシャツに袖を通した彼は、少し匂いを嗅いで、きょとんとしたかと思うと笑った。
「サンキュ、汗臭いのマシになった」
「い、いえ」
そんなことでお礼を言われるなんて思わなかった。
だって、私の母は寝る前に父の明日のスーツを整えるのが日課だったし。父がそれにお礼を言ったことなんてないし。
あたり前だと思っていたことが、あたり前じゃなくなる。
相手が違うだけで……世界は変わるんだ。こんなふうに。
朝食を済ませ、宿を出た私たちはまっすぐに駅に向かう。
「今度は引っ張るなよ。さすがに二回も無駄にするんじゃもったいない」
「あ、……すみません。昨日の電車賃も私払います」
「そういう意味じゃないよ」
阿賀野さんの指が、券売機に伸びる。
吐き出される切符。現実に戻るための切符。
中に入って、やっぱり窓際の席を譲ってもらって。
阿賀野さんは軽くあくびをして私の反対側の肘掛けにもたれて頬杖をついた。
眠ってしまう前にと、私は意を決して話しかけた。
「結局、……分かったんですか?」
「何が?」
「付き合ってみなきゃ分からないからって、私を引っ張って来たんじゃないですか」
「ああ、そーだった」
阿賀野さんは肘をついたまま左手を口もとに寄せる。