ハイスペックなイケメン部長はオタク女子に夢中(完)
11.ご近所さん

家に帰って携帯を見ると竜二から何件も着信が入っていたが、あやめはどうせ明日も手伝えという連絡だろうと思い、無視することにした。冷蔵庫に残っていた適当な物で食事を済ませ、明日は買い物にもいかなきゃなと思いながら、さっさとシャワーを浴びると、イラスト作成に取り掛かった。今日実際にイートインコーナーを見て、やっぱり「水谷」の紹介をするなら、着物キャラにしようと思い、幾つか下案を描き始めた。今日あった白石さんを思い出しながら、男性キャラも描き始め、やっぱりイケメンキャラのほうが良いかな?と電車であった北見を思い浮かべながらいくつかイラストを書き、時計を確認すると日付が変わっていた。そろそろ寝ようと、サイレントにしていた携帯を見ると、また何件か竜二からの着信が入っていた。いい加減しつこいなと思いつつ、ホームページ作るならまた素材撮影に行かなきゃいけないのかなーと思い、面倒だなーとあやめは思った。

翌朝、8時半を過ぎて起き出したあやめは、部屋着のまま適当に掃除を済ませ、洗濯機を回すと、昨日とは打って変わって適当に日焼け止めを塗り、眉毛だけを書いて、昨日とは違う黒フレームの四角いメガネをかけ、髪は適当にお団子にまとめ、ジーパンに黒のTシャツ、その上にグレーのパーカーを羽織って、歩きやすいオレンジ色のスニーカーで近くのスーパーに買い出しに向かった。水ももうすぐ無くなるなーと思いながら、重たいので1本だけにして、野菜コーナーで必要なものをパパっとかごに入れ、鮮魚コーナーで鮭の切り身と安売りになっていたブリのあらを手にとって見ていると、

「それどうやって食べるの?」と、聞き覚えのある低い良い声に、驚いて振り返ると、今日も涼やかな笑顔で北見があやめを見ていた。思わず眉間にしわを寄せて

「何で?」と呟いたあやめに、北見はクスッと笑って、

「2日連続で会うなんて、すごい偶然だね。」と言った。あやめは、

「そうですね。」と答えるのが精一杯で、何でこんなところで完全オフモードですっぴん状態の私を会社の上司に見られないといけないんだ…とブルーな気持ちになった。そんなあやめの様子を気にも止めず、

「で、それ、どうやって食べるの?」と北見があやめの手元を指して、もう一度聞いた。あやめは手にしていたブリのあらを思い出して、

「煮付けにしようかと。」と答えると、北見は

「へー、吉田さん、そんな料理できるんだ。」と嬉しそうに笑った。

「煮付けって言っても、鍋に調味料入れて、アラをぶち込むだけなんで、誰にでも出来ると思いますよ。」とあやめが言うと、

「えー、そうなんだ。」と北見は驚いた顔をした。あやめがかごに入れたのを見ると、

「食べたい。今度食べさせて。」と北見は言った。あやめは思わず、

「は?」と言ってしまった。北見は、

「ご近所さんみたいだし、今度食べさせて、ブリの煮付け。」と尚も言うので、

「イヤです。そんなの彼女に作ってもらって下さい。」とあやめは断った。北見は、驚いた顔をして、

「そりゃそうだね。ははは。」と笑った。あやめは、この人と居ると周りに注目されている気がするし、調子が狂うのでさっさと逃げて買い物を済ませようと、

「では、失礼します。」と頭を下げてカートを押し進めると、

「吉田さん、それ彼氏に作ってあげるの?」と、北見が横に並んで歩きながら話しかけた。あやめは、ついてこないでよ…と思いながら、

「いえ、自分のために作って食べます。」と答えると、北見は

「じゃぁいいじゃん。オレも彼女いないしさ。材料費払うからうちで作って一緒に食べようよ。」と言った。世の中の女性は、イケメンにこう言われればハイハイとついて行ってご飯を作ってあげるのだろうか?と思いながら、あやめは

「イヤです。」と即答した。北見は笑いながら、

「そう言うと思った。ま、今度気が向いたら食べさせて。」と言って、手を振ってレジへ向かっていった。何なんだろう、あの人…と思いながら、やっぱりイケメンは苦手だと結論づけ、あやめは精肉コーナーへ移動し、買い物を続けた。
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