ハイスペックなイケメン部長はオタク女子に夢中(完)
12.コンペ準備

月曜の朝、出社すると、課長が

「吉田さん、ちょっといい?」と呼んでいる。最近呼び出しが多いなと思いながら

「はい。」と課長の前へ行くと、

「コンペの準備は進んでる?」と聞かれた。あやめは、まだ気にしていたのか、と思いながら、

「はい。一応題材は決めました。」とあやめが答えると、課長は驚いた顔をして、

「そうか。どこの店だ?」と聞いた。

「祖父が鎌倉で和菓子屋を営んでおりまして、叔父がそこでイートインサービスを始めると聞いておりましたので、そこを題材にしようと思っています。」とあやめが答えると、

「身内の店か。じゃぁしっかりしたのを作らないとな。」と課長は言った。あやめは、

「はい。何とか形に出来るように頑張ります。」と答えると、

「北見部長にもフォローを頼んであるから、作業で何かわからないことがあれば彼に聞いてくれ。」と課長が言った。あやめは、部長に聞くなんて恐れ多い…と思いながらも、それを言ったら他の人にも頼み兼ねないと思い、

「お気遣いありがとうございます。」と頭を下げた。

定時で仕事を終えて、自宅に戻ると、あやめはノートパソコンに向かって簡単なサイトの作り方を確認した。大学時代に一度授業でやったことがあったので、難しいことはできないが、何となく使い方はわかる。わからないことは、ラインでオタク仲間に聞くと、大概のことがすぐ解決した。あやめは大まかな枠を決めると、他の飲食店のサイトをいくつか覗き見て、こういう情報を乗せれば良いということをある程度理解した。菓子がアップになった写真や、店の外観の写真、お抹茶を点てている写真はやはり必要かなーと思いながら、いずれにしてもまた「水谷」に行って撮影しなきゃいけないことを考えると、やっぱり竜二には連絡しなきゃまずいよな…と土曜に着信を無視したことを少し後悔した。怒られる覚悟を決めてあやめは竜二に電話をかけた。

「おー、あやめ。土曜は悪かったな。」と先に電話口で謝られ、あやめは拍子抜けした。

「ホント、まさか一日中こき使われるとは夢にも思わなかったわ。」とあやめが言うと、

「いやー、ホントに助かったよ。親父も了承してくれたし、昨日も大好評だったよ。」と上機嫌の竜二に、昨日もやったんだ…恭ちゃんお腹大きいのに大丈夫だったかな…と心配になった。

「昨日?恭ちゃん一人でお茶点てたの?」とあやめが聞くと、

「それがさ、昨日親父と話してた白石さんの息子さんが全面協力してくれてさ、お稽古に通ってる若い人たちに声かけてくれて、昨日3人も手伝いに来てくれたんだよ。」と竜二の返答にあやめはホッとした。話を聞くと、継続的に土日、祝日はバイトと言う形でお茶のお稽古に通っている生徒さん達が、交替で入ってくれることになったらしい。白石さん曰く、これも練習になるし、口コミでお稽古に通う人が増えるかもしれないから有り難いということだった。平日は、恭子と祖母と以前からパートで来ている年配の女性がお茶を点てるという話に落ち着き、きちんとしたイートインサービスを始めたようだった。白石さんとは、意気投合し、お茶会イベントの企画もしているらしく、竜二は本当に上機嫌だった。適当に相槌をうちながら、ホームページに掲載する内容の要望を聞き、イベントのページも追加することになった。

「で、写真はいつ撮りに来るんだ?」と竜二に言われ、そう言えば写真の撮影はプロにお願いしたほうが良いのだろうか?と考え、

「んー、ちょっとまだ聞いてみないとわからない。また決まったら連絡する。」とあやめが言うと、

「来週の日曜は和装でお茶を点ててもらえる予定だから、それに合わせて撮影出来ればありがたい」と竜二が言った。とりあえずメモして、また連絡すると、電話を切った。

翌日、写真をどうすれば良いのか、他の人に聞いてみようと、昼休みに同じ総務課の異動希望を出している宮下に声をかけた。

「宮下さんは、写真の撮影ってどうされるんですか?」とあやめが聞くと、

「写真?何の?」と聞き返された。あやめは説明不足だったと思い、

「コンペの話です。」と言うと、宮下は驚いた顔で、

「吉田さんコンペ出るの?」と言った。あやめは、

「はい。課長も勧めてくださいましたし、身内の飲食店なんですけど。」と答えると、宮下は益々目を丸くして、

「そうなんだ。すごいね。頑張って。」と言った。あやめが、

「宮下さんも出されるんですよね?」と聞くと、

「まさかー。出すも何もホームページなんか作ったことないから、出来るわけないよ。」と言った。あやめは

「え?そうなんですか?てっきり皆さん出されるものだと思ってました。」とあやめが言うと、宮下はプッと吹き出して、

「多分、この課の人は誰も出さないよ。皆そんなの出来るわけないって言ってたし。でも、それがわかってたから、課長も吉田さんに出すように言ったんじゃない?吉田さんなら真面目だから出してくれるだろうって。」と言った。今度はあやめが目を丸くして

「え?課長は大勢出すだろうからっておっしゃってましたけど。」と言うと、

「まぁ、元々デザインにいて営業に回されてる人は結構出すんじゃない?各課から最低でも一人は出して欲しいって北見部長が通達出してたみたいだから。にしても、課長、絶対確信犯だよ、きっと。」と宮下は言った。あやめは、まじか…と思いながら、出るといってしまったし、今更出来ませんとは、課長にも叔父にも言えない。

「で、写真だっけ?経費はデザイン持ちだって言ってたから、デザインの人に聞いてみたら?」と宮下はアドバイスをくれた。あやめは、そうするしかないと諦め、お礼を言った。電話でも済むが、先程コピー機の用紙を追加しておくように頼まれたのを思い出し、あやめは、まだ昼休みの時間だったが、コピー用紙を台車に積み込み、デザイン企画部へ向かった。

「失礼します。」と声をかけて入ったデザイン企画部は、まだ休憩中のためか閑散としていた。数人がパソコンに向かって何か作業をしていたが、話しかけられる雰囲気ではない。あやめは誰に聞くべきか悩みながら、とりあえずコピー用紙の補充をしていると、

「あ、吉田さん。休憩時間なのに、わざわざありがとう。」とランチから戻ったらしい北見が声をかけた。あやめは、今聞くしかないと思い、

「いえ。あの、すみません。ちょっとお時間よろしいですか?」と北見に話しかけると、北見は嬉しそうに、

「何?プライベートなこと?」と言った。あやめが

「いえ、コンペのことで、ちょっとお伺いしたいのですが」と言うと、

「あー、そっちか。何?何かわからないことある?」と聞いた。あやめが写真のことを聞くと、撮影日のアポを取ってくれれば、デザイン企画からカメラマンを同行させると教えてくれた。叔父が日曜が良いと言っていたことを告げると、少し驚いた顔をして、

「とりあえず、行けそうなスタッフ探してみるよ。また連絡する。」と北見は言った。
< 12 / 36 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop