ハイスペックなイケメン部長はオタク女子に夢中(完)
13.写真撮影

北見部長が手配をしてくれたおかげで、日曜にカメラマンの中村が「水谷」に行ってくれることが決まった。あやめは、どういう写真が必要なのか、お菓子は何を準備してもらうかを、竜二や恭子と電話で相談し、最終的に祖父にも話を通して、いくつかの季節の和菓子と定番の菓子を決めた。金曜の定時前、現地集合を希望した中村に、店の場所を説明し、時間を確認していると、北見が近づいてきた。

「あ、日曜の確認?何時集合?」と聞かれ、中村が

「11時に現地集合です。」と答えた。北見は

「11時か…。ちょっと遅れると思うけど、オレも行くから後で地図頂戴。」と言った。あやめは何で?と思いながら北見を見ると、

「コンペ前の内偵。鎌倉は行けないかと思ってたけど、偶々明日、オレも鎌倉に呼ばれてるから。」と教えてくれた。そういうものなのか…と思いながら、

「表通りに面していないので、少しわかりにくいかもしれませんが、もしわからなければ携帯に連絡下さい。」と中村と番号を交換していると、何故か北見も登録していた。

あやめは翌日の昼から鎌倉へ向かった。竜二も早くから打ち合わせをしたいと言っていたし、祖父にも一泊していきなさいと言われた。先週、挨拶もせずに逃げ帰ったのがよくなかったらしい。一泊分の荷物を詰めて、電車に乗った。店を覗くと、先日よりも人が入っていて、奥の土間では、揃いの着物をきた若い女性が二人で接客をしていた。いい雰囲気じゃんと思いながら、

「こんにちは。」と声をかけると、奥から恭子が出てきた。

「あやめ、皆待ってるわよ。上がって。」と言われ、二階へ上がると、応接間に竜二と祖父、白石さんと、もう一人男性が座っていた。あやめが

「こんにちは。」と声をかけると、竜二が、

「あー、やっと来た。紹介します。姪のあやめです。」と紹介した。あやめが会釈をすると、白石さんが、

「倅の年樹だ。」と教えてくれた。空いていた祖父の横に座り、

「はじめまして、吉田あやめです。」と挨拶をすると、

「白石年樹です。ホント、さくらさんとおんなじ声だ。」と言った。確かに声は母親に似ているかもしれないなと思っていると、竜二が、

「年樹さんが今回のイートインサービスの立役者だよ。年樹さんが居なかったらホントに今頃どうなってたか。先週はあやめにトンズラされるし。」と言った。あやめが大きくため息をつくと、祖父が

「おまえが考えなしに勝手にあやめを頼って進めるからこんなことになったんだろうが。」と竜二に言った。白石が

「まぁまぁ、でもあやめさんが土曜日に竜二を完全無視してくれたおかげで、年樹がやるようになってくれたんだから、いいじゃないか。」と祖父を宥めた。あやめは、居た堪れない気持ちになりながら、

「叔父の勝手なわがままで白石さんにご迷惑をおかけして申し訳ありません。」とあやめが頭を下げると、年樹は

「いやいや、最初は驚いたけど、生徒さんたちも喜んでやってくれてるから全然問題ないですよ。」と言ってくれた。

「竜ちゃん、この際だからはっきり言っておくけど、私はもう学生じゃなくて社会人なの。アルバイトも副業も禁止なんだからね。今までみたいに軽く手伝ってって言われて、ハイハイ行けるわけじゃないんだから、当にされても困ります。父親になるんだからいい加減、思いつきじゃなくしっかり考えて段取りつけてから行動してよ。そんなんだからおじいちゃまだっていつまでたっても竜ちゃんに任せられないんでしょ。」と竜二に向かって言った。竜二は全然答えていないようで、ハイハイと適当に流したが、年樹が

「さすが、さくらさんの娘さんですね。」と祖父に向かって言っていた。明日は年樹さんが和装でお点前を披露してくれるらしく、必要ならモデルも用意すると言ってくれた。あやめはそこまでイメージしていないし、必要ないとはっきりいうと、

「ま、モデルじゃなくてもあやめさんが着物きたらそれで十分か。」と年樹が言った。

「いえ、私は明日は着ませんよ。」と言うと、白石が、

「こないだの着物、よく似合ってたよ。」と言った。あやめは

「ありがとうございます。でも、明日は会社の撮影スタッフも来ますので、色々と動かなければならないので、遠慮しておきます。」と答えると、

「あやめなら着物でも問題なく動けるだろう。」と祖父が言った。あやめは

「おじいちゃま、着物はまたいつでも着られますから。」と祖父に納得してもらった。

翌日、あやめは紺のワイドパンツに白ブラウス、ベージュのカーディガンを羽織り、動きやすいようにフラットな辛子色のパンプスを履いて、出勤にも問題ないようなスタイルにまとめ、髪はじゃまにならないようにゆるく編み込んで片側に三つ編みで垂らし、10時頃からバタバタと準備をした。お茶のサービスを担当している着物姿の女の子たちもそわそわしていて、竜二も珍しく朝から割烹着を着て仕事場に入り、祖父に邪魔をするなと怒られていた。10時半過ぎに年樹がやってきて、中庭の奥の椅子にお茶の道具を並べ、お茶会の準備をした。準備を手伝いながら、

「あやめさんは東京でお勤めされてるんでしたよね?」と聞かれ、

「はい。北見グローカルコーポレーションという広告や広報のお手伝いをする会社で事務をしています。」と答えた。年樹は驚いた顔をして、

「北見グローカルコーポレーション!?」と言った。あやめは、何をそんなに驚いているのだろう?と思いながら、頷き、

「ご存知ですか?」と聞くと、

「ご存知も何も、叔父の会社だよ。ってことは、親父、完全に空回りしてるな。」と笑った。あやめは空回りの意味がわからなかったが、叔父の会社ということは、社長の親族ということなのかと理解し、

「そうだったんですか。お世話になっております。」と言うと、年樹は、

「ってことは、まーくんも知ってるんだよね?」と言った。

「まーくん?」と聞き返すと、

「北見雅也って知らない?なんか部長になったとか言ってたけど。」と年樹が言った。あやめは

「北見部長ですか?今回のコンペを管轄されています。今日も、内偵にいらっしゃる予定ですが」と答えた。年樹は笑いながら、

「ははは、そうなんだ。ホント、何やってんだろうな、親父は。」と言った。あやめはわけがわからず?という顔をすると、

「あー、こっちの話。まーくんって会社でどんな感じ?」と聞いた。あやめは

「私は部が違うのであまり存じ上げませんが」と言うと、

「会社でモテてる?」と聞いた。あやめは初めて総務課のフロアに来たときのことを思い出し、

「そうですね。女性の視線は集めてらっしゃるので、おモテになるんじゃないかと思います。」と答えた。話している間に、中村が店に着いたようで、あやめは慌てて表へ出て、中村に指示を出しながら撮影を始めた。中村は外観の写真を撮り終えると、中に入り、土間と中庭のスペースを見ると、

「こりゃーいいな」と言いながらどんどん写真を撮ってくれた。竜二も出てきて、挨拶をし、撮影予定の和菓子を出してきた。奥で年樹がお茶を点てている姿も撮影し、点てたお茶をお菓子と並べて撮影していると、北見が白石と共にやってきた。

「まさか、吉田さんの題材が、叔父や年樹の息がかかってるとは夢にも思わなかったよ。」と北見の言葉に、

「私も先程年樹さんから伺って驚きました。」とあやめが答えると、

「おやじ、まーくん会社でモテてるらしいから、余計な気回さなくてよかったんじゃない?」と年樹が白石に向かっていった。

「まーくん?」と中村が北見を振り返ると、北見はバツが悪そうにして、

「年樹、いい加減その呼び方止めてくれ。もう子どもじゃないんだから。」と嗜めた。クツクツ笑いを堪えている中村を見て、

「中村さん、勘弁してください。まさか叔父や従兄弟が絡んでいるとは思っても見なくて、こんなことなら今日は来るんじゃなかった。」と北見は言った。白石が、

「そんなに嫌がるなよ、雅也。水谷にはうちもいつもお世話になってるんだ。」と宥めた。北見は仕事を思い出したように竜二に

「確かに、いい雰囲気ですね。和装をした女性がサービスしてくれるというのも観光客は喜びそうですし。」と言った。竜二が、得意気に話しをしている間に、あやめと中村は撮影を続け、せっかくだからとサービスの女性たちにも入ってもらい、概ね撮影は順調に終わった。遅めの昼食にと、恭子が二階で店屋物を注文し、撮影に使ったお菓子とお抹茶も皆で頂き、北見がかかった経費の支払いを済ませると、中村は個人的にもう少し周りを撮影して帰ると言った。白石が、

「雅也、車で来てるんだろ?あやめさんも乗せて帰ってあげたらどうだ?」と北見に言った。

「電車で帰れますのでお気遣いなく。」とあやめが断ると、

「吉田さんこの後何かあるの?」と北見が聞いた。あやめが、

「いえ、特にはないですが…」と答えると、

「だったら近所なんだから遠慮せず乗って。電車代もうくし。」と北見が言った。あやめは、まじかよ…と思いながらも、皆がそうしろという雰囲気になっている。

「すみません、では、お願いします。」と慌てて荷物を準備して、北見の後に続いた。

< 13 / 36 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop