ハイスペックなイケメン部長はオタク女子に夢中(完)
16.打ち上げの居酒屋鍋

コンペが無事に終わり、あやめはやっと普段の生活に戻れた。久々に自由に好きなイラストをかけることに喜びながら、写真とのコラボをまたしてみたいと思い、イラスト仲間たちに声をかけ、近々集まろうという約束をした。課長はあやめがコンペに無事に出せたことを喜んでくれて、竜二も助かったと言っていた。通常に戻り、総務課で入力作業を続けていると、コンペに出ていた企画営業の保田がやってきた。

「吉田さん、すみません。北見部長からなんですが、この間のコンペの打ち上げをしようという話が出てるんですけど、吉田さんの予定教えてもらってもいいですか?」と言った。北見の遣いか…と思いながら、あやめが予定を答えると、

「何処か行きたい所とかありますか?北見部長のおごりなんで、行きたい所連れて行ってもらえるみたいです。」と保田が言った。あやめは、少し考えて、

「行きたい所ですか…特にないんですけど…強いて言えば、鍋が食べたいので、居酒屋で鍋が食べられる所ですかね。」と答えた。保田は、

「鍋か…。確かに寒くなってきてますもんね。じゃぁ、それで場所探してみます。」と言って戻っていった。打ち上げなんて、無縁の生活を送ってきたあやめは、どういうものなのかワクワクしてきた。居酒屋で鍋が食べられるお店がどのくらいあるのかは知らないが、

宴会プランみたいなチラシを見たことがあり、あやめは一度食べてみたいと思っていた。後日保田が何軒か店を選んでくれ、金曜にあやめが選択した店で、デザイン企画と今回のコンペ参加者の慰労会が行われることになった。

集合の19時5分前に店に着くと、デザイン企画の人はもう既にほとんど来ていた。あやめと同期入社で、コンペにも出ていたデザイン企画のメンバーが、

「吉田さんここどうぞ。」と言って同じテーブルに席を空けてくれた。あやめはホッとしながら、

「ありがとうございます。」とお礼を言って席に着いた。鍋の具材が既にテーブルにきれいに並んでいて、あやめはワクワクした。他のテーブルにも人がある程度ばらけて座っていて、少し遅れて北見部長も企画営業の保田もやってきて、それぞれ別のテーブルについた。19時になり、保田が北見に、

「すみません、倉本さん、ちょっと遅れるみたいです。」と言うと、北見は

「じゃぁ、始めるか」と言って、乾杯をした。あやめは、ビールを一口飲んで、早速鍋に具材を並べていった。デザイン企画の同期が

「あぁ、ごめん。オレやるよ。」と言ってくれた。あやめが、

「あ、すみません。勝手に作り始めて。」と謝ると、

「いや、勝手にやってくれるのは全然問題ないんだけど、今日は吉田さん主役だからさ、主役に鍋奉行やらせるのは申し訳ないし。」と言った。あやめは驚いて、

「どうして私が主役なんですか?」と聞いた。同期は、

「だって、これ、こないだのコンペのお疲れ会がメインでしょ?本当はデザイン企画以外のメンバーでやる予定だったらしいけど、鍋なら大人数が良いだろうって話でうちのメンバーもはいることになったって聞いたけど?」と言った。あやめが、

「そうだったんですか。すみません。私が居酒屋でお鍋が良いってリクエストしちゃったんで。」と答えると、

「いやいや、こっちはラッキーだよ。お陰で美味しい酒が飲めるし。」と笑った。あやめは、ホッとして、

「迷惑じゃなければ、この鍋仕切らせて下さい。」と言った。隣で飲んでいた先輩が、

「鍋奉行なの?」と聞いてきた。あやめが、

「鍋奉行やってみたいんです。」と答えると、笑いながら、

「じゃぁ、吉田さんにお願いしよう。コイツらが仕切ったらまずくなりそうだし。」と言ってくれた。あやめは、とりあえず自由に鍋を任せてもらえることになって安心した。一回目の鍋が煮えて、テーブルの皆の器に均等に盛ると、皆喜んでくれて、どんどんお酌をしてくれた。イラストはどこで覚えたの?とか、普段から描いてるの?とか色々と質問をされながら、あやめは周りのペースに合わせて飲んでいると、いつの間にかとても気分がよくなってきてしまっていた。隣の先輩に、

「吉田さん、結構いける口?」と聞かれながら、注がれた熱燗をクイッと飲むと、身体がぷわーっと暖かくなるのを感じた。あやめは

「いえ、熱燗なんて初めて飲みました。でも、思ってたよりまずくないですね。」と答えた。隣の先輩は、

「おっそれは、大人の階段上ったねー。」と嬉しそうに言って、もう一杯注ぎ、自分のおちょこにも注いでいた。あやめが注ごうとすると、

「あー、そういう面倒なのは気にしなくて良いよ。ここのメンバーは自分で勝手にやるから。さ、吉田さんもしっかり飲んで。」とお酒を勧められた。

「それにしても、コンペの日は驚いたなー。」としみじみ言われ、あやめが

「何がですか?」と聞くと、

「いやー、まずオレたちの中で総務の吉田さんがコンペに出すってのが一番の驚きだったんだけどさ。」と説明してくれた。デザイン企画の中では、あやめは総務課で大人しく真面目で律儀な気難しい村川課長の秘書という認識だったらしく、そのあやめがコンペに出るということは、いよいよ村川課長に三行半か?と話題になったらしい。あやめはなんて話だと思いながらも、だいぶ酔いが回ってきたようで、笑いながら、

「何ですか、それ。でも、私どうも、村川課長に嵌められたっぽいんですよねー。」と答えた。

「何それ?」と、同じテーブルの皆が食いついてきた。あやめは、最初は全く出る気がなかったこと、課長に皆も出すから気軽に出すように勧められて、適当な返事をしたら、いつの間にか北見部長に自分が出すことを伝えていて、周りを固められて、出さざるを得なくなったこと、出すと思っていた周りの課員たちに、最初から誰も出す気がなかったことを聞かされ、出す人が居ないから自分に出すように勧めたと、言われたことを説明した。皆笑いながら、

「そりゃ、完全に村川課長の思惑通りだな。」と言った。やっぱりそうなのか、と思い

「でも、コンペの日は、本当にその場に居ることにめちゃくちゃ後悔しましたけど、結果的には出してみて良かったです。」とあやめが言うと、

「何でコンペの日、後悔したの?」と隣の先輩が聞いた。あやめは、

「だって、皆さんの作品すごいんですもん。私みたいなド素人の作ったホームページ出すなんて、ほんとにふざけんなって怒られるんじゃないかと思ってビクビクしてたんです。」と答えた。皆笑いながら、

「いや、あの日の主役も間違いなく吉田さんだったよ。」と言った。あやめが驚いた顔で見ると、

「そりゃ、技術的なことはさ、たしかに素人感否めないってか、技術的なことまでやられちゃったら俺らの立場ゼロだしさ。でも、あの場の雰囲気をガラッと変えて、あのイラストと写真のミスマッチ感を惜しげもなく出し切るセンスの鋭さ。ホントに皆度肝抜かれた感半端なかったよ。」と先輩が言った。確かに、北見部長も驚きしかないって言ってたなーと思いながら、あやめは、

「いやー、あれは趣味が転じてというか、それしか使えるものがなかったんで。」と笑いながら答えた。皆はそれでもすごいと褒めてくれて、あやめは気分良く酔っ払っていた。途中で、いつの間にか遅れて北見のテーブルについていた倉本が、わざわざビールを持ってお酌をしに来てくれた。あやめは、今日もキレイだなー、やっぱりできる女は違うなーと思いながら、あこがれの眼差しで倉本を見て、

「あー、倉本さ~ん。私ずっと倉本さんと話したいと思ってたんですよ~」と言うと、倉本はあまり飲んでいないのか、

「吉田さん、お酒強いの?」と聞かれた。

「全然強くないんですよ~。でも、なんかこういうお店でお鍋食べてみたかったんで~夢が叶いました~」とかなりご機嫌で答えると、

「どのくらい飲んだの?大丈夫?」と心配された。

「大丈夫ですよ~。倉本さんも飲んでますか?しっかり飲んでくださいよ~。」とあやめがビールを勧めると、隣の先輩に何かを言って、

「またゆっくり話しましょうね。」と言って戻っていった。ある程度の時間になると、北見部長が会を閉めた。あやめは緊張してたけど楽しかったなーと思いながら、北見たちのテーブルを見た。何やら北見が倉本の肩を抱いて言い寄っているようだ。何だか絵になる二人だなーと思いながらも、私の憧れの倉本さんに簡単に触れるなーとイラッとした。すると、倉本は意外にも北見の腕を払って、北見に向かって何か文句を言っている。よく聞き取れないが、どうも倉本は北見のことをよく思っていないようだ。ホッとして居ると、隣の先輩が、

「あー、また北見さんがくらもっちゃんにフラレてるー。」と言って爆笑していた。周りも、懐かしい物を見るような目で二人のやり取りを見ている。ってことは、北見部長の片思いってことか、あんなイケメンごときに靡かない倉本はやっぱりかっこいいと思っていると、いつの間にか倉本は居なくなっていた。あやめは、残念に思いながらも、何か眠たいなーと思いながら、二次会行くぞーという声に

「はーい。」と返事をした。
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