ハイスペックなイケメン部長はオタク女子に夢中(完)
20. お茶会の案内

竜二から11月の初めに水谷のイートインでお茶会を開くという連絡が入り、あやめはホームページのイベント欄にお茶会の情報を入れ込むことになった。先日の年樹さんの写真を元に、イラストを描き、新しいページを作成した。外国人観光客へのアピールも兼ねて、英語のページも作って欲しいと竜二から言われ、ページをコピーして、英語バージョンのホームページも作成した。父の仕事の関係で子供の頃にアメリカに住んでいたおかげで、普通の会話くらいなら問題がないあやめにとって、この程度の情報を訳すことはそれほど難しくなかった。竜二からの電話でお茶会に参加するよう言われたが、あやめは、年樹さんの生徒さん達が参加するお茶会に、きちんとしたお稽古を受けていない自分が行くのは気が引けて、やんわりと断った。すると、今度は祖父から電話がかかってきた。電話口で

「あやめはこの間、着物はいつでも着られると言って着なかっただろう。」と言われ、確かにそう言ったけど、別にお茶会じゃなくてもお正月にまた行くからと言うと、

「正月まで待てというのか。」と寂しそうに言われてしまい、

「白石も、お前に是非参加して欲しいと言っている。」とまで言われると、特にこれと言った予定がないだけに断りきれず、

「わかりました。参加させてもらいます。」とあやめは答えた。あやめは恥を書かないようにと、一通りお茶会のマナーを復習し、母に電話をして確認をしたり、袱紗や懐紙を準備したり、きちんとしたお茶会に参加する準備を進めた。少しゆっくりしていけば良いという祖父の言いつけ通り、一日有給を取って、2泊3日で鎌倉へ行くことにしたあやめは、お茶会が終わったらおばあちゃまと一緒に温泉にでも…と考えていた。

お茶会の前日に水谷を訪れると、お店は翌日の準備でバタバタしていた。竜二も恭子も忙しそうにしていて、あやめも準備を手伝おうと土間へ出た。奥の中庭では、すでにお茶会の準備が進められていて、年樹や生徒さんの姿もあった。

「こんにちは」と声をかけると、年樹が気づき、

「あー、あやめさん。来て下さったんですね。」と近づいてきた。生徒さんたちは不思議そうにあやめを見ていた。

「紹介するよ。明日の特別ゲストで、この水谷の先代のお孫さんのあやめさん。」と年樹が生徒さんに紹介すると、

「えー?この方がですか?」と生徒の一人であろうあやめと同年代の女性が少し不服そうに言った。あやめは状況がよく掴めずに、どういう意味だろう?普通ゲストとして参加すると聞けば、友好的雰囲気になるのではないか?と思っていると、

「どうして先生じゃなく、この方が披露されるんですか?」と別の生徒が聞いた。あやめは思わず、

「は?どういうことですか?」と年樹を見た。年樹は

「そりゃ、この方がこちらのホストだからさ。」と生徒さんたちに説明していたが、あやめは聞きづてならなかった。

「ちょっと待ってください。私、そんなこと聞いてないです。」と年樹に向かって言うと、年樹は

「え?僕は竜二さんからそう聞いてるんだけど。」と答えた。あやめは、

「有り得ないですよ、年樹さん。私は水谷のホストではありませんし、何かの間違いです。私は客人として参加させてもらうつもりです。」と話していると、問題の竜二がやってきた。

「どうかしました?」と年樹にむかって話しかける竜二に、あやめが噛み付こうとすると、

「竜二さん、明日はあやめさんに点ててもらうって言ってましたよね?」と先に年樹が言った。竜二が

「え?まぁはい。」と答えるのを聞いて、

「竜ちゃん、私そんなこと聞いてない。何考えてんのよ。いつもここでお茶を点ててもらっているのは年樹さんのところの生徒さん方でしょう。何で大事なイベントの日に、いつもお世話になっている方を差し置いて私みたいな素人がお点前を披露しなきゃならないのよ。馬鹿じゃないの?大事なイベントなんだったら、年樹さんやいつもしてくださってる方にお願いするのが筋じゃないの?」とあやめが言った。すると、

「そうよねー。あやめさんだって困るわよねー。」と先程不服そうに言った女性が言った。あやめが思い切り頷くと、

「じゃぁ、今から橘さんとあやめさんの二人に点ててもらって判断するというのはどうですか?」と突然年樹さんが言った。あやめは訳がわからず、

「は?」と言った。しかし、橘さんは勝ち誇った顔で

「わかりました。」と答えた。あやめは何でこんなことになっているのかわけが分からず、竜二を睨みつけた。竜二は苦笑いをしながら両手を合わせて詫びの仕草をした。一体どういうことなんだ?と思いながら、とりあえず、明日と同じ状況でやるということで、着物に着替えることになった。髪を纏めて、バイトの接客用の着物を借り、一人で更衣室で着替えようとしていると、

「あなた、着物は着られるのね」と何故か敵対視されているらしい橘に嫌味を言われ、

「はい、一応」と答えながら、さっさと着替え、どういうことなのか竜二を問い詰めようと鏡を見ながらお太鼓の位置を確認していると、橘の着替えを手伝っていたもう一人の生徒が、

「お一人で着られるんですか?」とあやめに聞いてきた。あやめは

「ええ。一応。」と答えて帯締めを結び、襟元と襟足、帯を確認し、先に更衣室を出た。まだ帯を結んでもらっている橘は悔しそうに顔を歪めていたが、あやめはどうしてここまで敵対されるのか理解に苦しんだ。
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