ハイスペックなイケメン部長はオタク女子に夢中(完)
21.謎の対決

橘が着替え終わって出てくると、年樹の指示で、先にあやめがお点前を披露することになった。既に準備が終わっているものを確認しながら、袱紗が手元にないことに気づき、

「すみません。袱紗を取りに行きます。」と年樹に声をかけ、更衣室に戻ると、何故か橘の着替えを手伝っていた女性もついてきた。不思議に思いながら自分の鞄から袱紗を取り出し、ロッカーを閉めて出ようとすると、

「あ、あの」と声を掛けられた。あやめが振り返ると、

「ここには袱紗は置いていないんですか?」と聞かれ、

「すみません。私は普段ここで働いているわけではないので存じませんが…」と答えると、

「あ、そうですよね。すみません。」と言って、彼女は他のロッカーを探し始めた。更衣室を出ると、ちょうど恭子が現れたので、

「ここに、袱紗ってある?」とあやめは聞いた。恭子はあやめの格好に驚きながら、

「手に持ってるじゃない。」と言った。あやめは、状況を説明し、アルバイトは普段使っていないのか?と聞くと、

「わからないけど、うちでは準備してないと思うよ。普通持参するでしょ。」と恭子は言った。そう言われれば確かにそうだ。現にあやめも持参している。更衣室で探しているということは、彼女は持ってきていないということだろうと思い、

「更衣室で探している子が居るから、上に控えがあったら貸して上げて。」と恭子にお願いし、あやめは中庭に戻り、お茶の準備を始めた。昔母に言われたことを思い出しながら、丁寧に流れるように準備を進めていると、いつの間にか祖父と白石、それに同年代の女性が準備された椅子に座り、お菓子を食べていた。あやめは少し戸惑いながらも、一服目のお茶を点て、一番手前に座っていた女性に会釈をし、差し出した。白石と祖父にも出して飲んでもらい、祖父は嬉しそうにしていた。あやめが茶碗を引いて、片付け始めると、

「ほんと、お茶の味までさくらちゃんとそっくりね。」と女性が言った。あやめが驚いて女性を見ると、白石が

「あぁ、あやめさんは初めてだったね。家内だよ。」と紹介した。家内って、ことは…お茶の先生ってこと!?なにこの状況…と焦って年樹を見ると、苦笑いをしていた。あやめは後でどういうことがとっちめようと思いながらも、挨拶が先だと思い、片付けの手を止めて、

「存じ上げず、失礼いたしました。吉田あやめです。」と頭を下げた。白石夫人は笑って、

「さくらちゃんも知らない間にこんな立派な後継者を育て上げてたのね。」と言った。あやめが首をかしげると、

「さくらちゃんは私が初めて暖簾分けを許した生徒よ。」と先生の顔で言った。あやめが驚いて固まっていると、年樹が出てきて、

「母さんのお墨付きか。じゃぁ、次、橘さんお願いします。」と声をかけた。橘は、最初の勢いはどこへ言ったのか青白い顔で、

「えっ、い、いえ、わ、私は…」と小声で言っている。状況を考えると橘が気の毒でならない。あやめは門下生でもないし、現に今まで白石夫人のことを知らなかったので、普段通りにお茶を点てられたが、橘はそうはいかないだろう。年樹を止めるべきか考えていると、

「そんなに緊張していたら美味しいお茶は点てられないわよ。心配なさらないで。私はもう失礼しますから。」と白石夫人が席を立った。年樹が苦笑いをしながら、

「まぁ、母さんを目の前にして緊張するなという方がムリだよ。」といいながら、白石夫人を見送った。橘は呆然としていて、見ていて可愛そうだった。年樹は

「さぁ、橘さん、仕切り直してお願いしますよ。」と声をかけるが、まだ顔色が悪く、動こうとしない。白石が

「おい、年樹、彼女少し具合が悪いんじゃないか?」と心配そうに言った。年樹は、

「本当ですね。先程まではあんなに元気だったのに、今は無理そうですね。仕方ない。申し訳ありません、水谷さん」と祖父に謝った。祖父は

「いや、わしはあやめのお茶だけで十分だよ。じゃぁ、白石、わしたちも失礼しようか」と席を立った。あやめは、思わず

「おじいちゃま、明日は私ホストじゃなくて、客人として参加したいの。いつもここでお茶を点ててくださってるのは年樹さんや生徒さん方でしょ?私がホストとして出るのはおかしいと思わない?」と言った。祖父は不思議そうな顔であやめを見ながら、

「そりゃーそうだろう。年樹くん、明日は君たちでやってくれるんだろ?あやめには他にやってもらうことがあることだし。」と年樹に向かって言った。年樹は苦笑いを一層深め、

「水谷さんにそこまで言われると、そうするしかありませんね。では、ホストは私がさせてもらいます。ですが、あやめさんにもお手伝い願います。」と頭を下げた。祖父はあやめの肩をポンポンと叩くと、

「それで良いな?」と言った。あやめが頷くと、

「じゃ、そういうことで頼む。」と祖父と白石は出ていった。わけがわからないと思いながらあやめは更衣室で着替えをしていると、遅れて着替えにきた少し顔色の戻った橘から睨まれていることに気がついた。何だろう、この居た堪れない感じ…と思いながら、さっさと着替えて出ていこうとすると、

「先生たちを味方にしたからって良い気にならないでよ。」と橘が言った。あやめは

「どういう意味ですか?」と思わず聞き返してしまった。まさかあやめが言い返すとは思ってもいなかったようで、少したじろいだ橘に、

「そもそも、どうしてあなたに敵対視されるのか全く身に覚えがありません。明日のホストの件もお断り申し上げたのに、何が不満なんですか?」とあやめがごく冷静に橘に向かって聞くと、橘は顔を真っ赤にして

「何もかもよ!」と怒った。あやめは、なんだこの人?と不思議に思いながら、大きくため息を付いて、

「そうですか。では、お先に失礼します。」と部屋を出た。何か分からないがまた巻き込まれている感が半端ない。とっとと竜二と年樹を捕まえて話を聞こうと二人を探すと、恭子があやめを呼びに来た。
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