ハイスペックなイケメン部長はオタク女子に夢中(完)
23. お茶会
翌日、あやめは恭子が出してくれた薄い鶯色の小紋の訪問着に黒と焦げ茶色のチェックの帯を合わせ、髪はサイドから編み込んでから後頭部で纏め、べっ甲のかんざしを一本つけて、いつもよりも濃い目の化粧をして支度をした。11時のお茶会には、予想よりも多くの人と観光客が入っていた。あやめは祖父に言われた通り、客人として末席に座り、年樹の点てたお抹茶を味わった。パフォーマンスの客人として招待されていたのは、着物を着た年配の男性と、スーツを着た男性、着物を着たあやめより年配の女性、ラフな服装の外国人の男性とあやめの5人だった。全員お茶会には慣れているようで、隣の外国人の男性も様になっている。どうも人に見られながらお茶を頂くというのは不思議な感覚だったが、年樹の点てたお茶はやはり美味しかった。パフォーマンスが終わり、一般客にもお茶がもてなされる時間になると、隣の外国人の男性は、フーと大きな息をついた。あやめが思わずクスリと笑うと、
「あなたも白石先生のお弟子さんですか?」と話しかけられた。あやめは
「いえ、直接には。母が以前白石先生に習っていたようで、私は母から教わりました。」と答えた。I seeと答えた彼に、あやめが英語で話しかけると、少し驚いた顔をした。Maxさんはアメリカ人で、日本の伝統文化に興味があって来日し、大学院で能の研究をしているらしい。年樹の知り合いの茶道家が大学のサークルの講師だった関係で、今日は招待され、外国人観光客への説明をお願いされていたようだ。あやめは年樹さんの交友関係も広そうだなーと思いながら、周りに目をやると、システムがわからず戸惑っていたり、写真だけ撮って帰ろうとしている外国人観光客が多々いた。あやめは席を立って、観光客に話しかけ、テイスティングを勧めた。観光客の小さな女の子がやってみたいというので、年樹に伺いに行くと、どうぞと、茶碗と茶筅を貸してくれた。お抹茶とお湯を少し入れて、女の子に説明しながらやってもらうが、中々立たない。あやめが隣に座り、手を添えて一緒に点てると、わーと喜んでくれた。しかし、初めて飲んだお抹茶はお子様には苦かったようで、グェと渋い顔をしていて女の子の親も周りの観光客も笑っていた。あやめは、袂に忍ばせていた小さな丸い和三盆を女の子の口に入れてあげると、美味しいと上機嫌になった。かわいい金髪の女の子とお茶を点てていたため、周りから注目を集めていたようで、それは何?と和三盆に興味を持った観光客が多かった。あやめは、和三盆を説明しながら、店舗には色々な形の物が売っていて、日持ちもすると言うと、どこにあるの?と聞かれ、外国人観光客をぞろぞろと引き連れて店舗へ移動し、和柄の可愛らしい包み紙の丸い和三盆や、富士山や花模様など色々な型で紙箱に入った物などを紹介した。何人かの観光客がお土産用に和三盆を購入して店を出るのを見送って、中庭へ戻ると、Maxが他の外国人観光客に英語で説明しながらお茶を点てていた。あやめがその様子を眺めていると、客人のスーツを着た男性が近づいてきて、
「少しよろしいですか?」と聞いた。あやめが頷くと、男性は徐ろにスーツの内ポケットから名刺を出して、あやめに渡した。地域の観光協会の責任者らしい。
「水谷さんにこんな素晴らしい娘さんがおられたとは、知りませんでした。是非、地域の観光産業に協力して頂きたい。」と言われ、あやめは少し困った。どう断ろうか考えていると、白石がやってきて、
「いやー、すまないね。彼女は鎌倉に住んでるわけじゃないんだよ。」と話を引き取ってくれた。あやめはホッとしながら、
「申し訳ありません。会社勤めをしておりますので、それほど頻繁にこちらに来ることもありませんし、今日は祖父に呼ばれて参加しただけですので。」と頭を下げた。白石が
「こっちの人間で、あやめさんの同世代となると…そうだ、橘さんを紹介しよう。彼女もお茶をやっているからね。」と言って、スーツの男性を伴って、いつの間にか奥のベンチで着物を着た年配の男性に話しかけている橘の元へ連れて行った。あやめはその様子を見ながら、白石は中々の策士っぽいなーと思った。あやめは土間の方へ戻り、使い終わった菓子器などを集めていると、先程の女の子が一緒に写真を撮ろう。と言ってきた。あやめは、喜んで快諾し、和三盆の袋を持った女の子と一緒にカメラに収まった。彼女の両親と会話をしながら、店先まで見送り、See youと挨拶をしていると、白石夫人と北見部長が驚いた表情でこちらを見ていた。あやめは驚きながらも、水谷の人間として
「いらっしゃいませ。昨日はありがとうございました。」と白石夫人に頭を下げた。白石夫人は
「いいえ、こちらこそ。あやめさん、紹介するわ、甥の雅也。」と何も知らないようであやめに北見を紹介した。驚いた表情のままの北見を見て、慌ててあやめは、
「部長、これは別に副業ということではなくて、祖父にお茶会イベントに参加するよう言われただけですので…。」と弁解をした。白石夫人は驚いた顔で
「あら、知り合いなの?」と北見に聞いた。まだ驚いた表情であやめを見て、何も答えない北見に代わって、あやめは
「はい。私、北見グローカルコーポレーションに勤めておりますので、北見部長にはいつもお世話になっております。」と白石夫人に説明をした。白石夫人は
「まぁ、そうなの?」と驚いた表情であやめを見て、北見を見た。まだ固まっている北見に
「雅也ったら、あやめさんにすっかり見惚れちゃって。」と笑った。白石夫人の言葉にやっと我に返った北見は
「あぁ、本当に驚いた。おばさんの言う通りだ。着物も似合っていてすごく綺麗だ。」とあやめの手を取って言った。あやめは思わず、
「北見部長?この手は何ですか?」と顔を引きつらせた。白石夫人は
「まぁ、雅也ったら。こんな店先で、あやめさんが恥ずかしがってるわよ。」と嗜めた。北見は、
「すみません。あまりにキレイだったのでつい。」と言いながら手を離した。あやめは何を言うんだこの人はと絶句すると、白石夫人が
「まぁまぁ。邪魔者はさっさと退散するわ。」と店内へ入っていった。あやめは何だこの状況と思いながら、白石夫人の後を追って店内へ入ろうとすると、北見があやめの手を取って止めた。あやめが驚いて振り返ると、真剣な表情の北見が
「ごめん。少し話がしたい。」と言った。
「今、ですか?」とあやめが聞き返すと、北見は頷いて、あやめの手を引いたまま店を背にして歩き出した。
翌日、あやめは恭子が出してくれた薄い鶯色の小紋の訪問着に黒と焦げ茶色のチェックの帯を合わせ、髪はサイドから編み込んでから後頭部で纏め、べっ甲のかんざしを一本つけて、いつもよりも濃い目の化粧をして支度をした。11時のお茶会には、予想よりも多くの人と観光客が入っていた。あやめは祖父に言われた通り、客人として末席に座り、年樹の点てたお抹茶を味わった。パフォーマンスの客人として招待されていたのは、着物を着た年配の男性と、スーツを着た男性、着物を着たあやめより年配の女性、ラフな服装の外国人の男性とあやめの5人だった。全員お茶会には慣れているようで、隣の外国人の男性も様になっている。どうも人に見られながらお茶を頂くというのは不思議な感覚だったが、年樹の点てたお茶はやはり美味しかった。パフォーマンスが終わり、一般客にもお茶がもてなされる時間になると、隣の外国人の男性は、フーと大きな息をついた。あやめが思わずクスリと笑うと、
「あなたも白石先生のお弟子さんですか?」と話しかけられた。あやめは
「いえ、直接には。母が以前白石先生に習っていたようで、私は母から教わりました。」と答えた。I seeと答えた彼に、あやめが英語で話しかけると、少し驚いた顔をした。Maxさんはアメリカ人で、日本の伝統文化に興味があって来日し、大学院で能の研究をしているらしい。年樹の知り合いの茶道家が大学のサークルの講師だった関係で、今日は招待され、外国人観光客への説明をお願いされていたようだ。あやめは年樹さんの交友関係も広そうだなーと思いながら、周りに目をやると、システムがわからず戸惑っていたり、写真だけ撮って帰ろうとしている外国人観光客が多々いた。あやめは席を立って、観光客に話しかけ、テイスティングを勧めた。観光客の小さな女の子がやってみたいというので、年樹に伺いに行くと、どうぞと、茶碗と茶筅を貸してくれた。お抹茶とお湯を少し入れて、女の子に説明しながらやってもらうが、中々立たない。あやめが隣に座り、手を添えて一緒に点てると、わーと喜んでくれた。しかし、初めて飲んだお抹茶はお子様には苦かったようで、グェと渋い顔をしていて女の子の親も周りの観光客も笑っていた。あやめは、袂に忍ばせていた小さな丸い和三盆を女の子の口に入れてあげると、美味しいと上機嫌になった。かわいい金髪の女の子とお茶を点てていたため、周りから注目を集めていたようで、それは何?と和三盆に興味を持った観光客が多かった。あやめは、和三盆を説明しながら、店舗には色々な形の物が売っていて、日持ちもすると言うと、どこにあるの?と聞かれ、外国人観光客をぞろぞろと引き連れて店舗へ移動し、和柄の可愛らしい包み紙の丸い和三盆や、富士山や花模様など色々な型で紙箱に入った物などを紹介した。何人かの観光客がお土産用に和三盆を購入して店を出るのを見送って、中庭へ戻ると、Maxが他の外国人観光客に英語で説明しながらお茶を点てていた。あやめがその様子を眺めていると、客人のスーツを着た男性が近づいてきて、
「少しよろしいですか?」と聞いた。あやめが頷くと、男性は徐ろにスーツの内ポケットから名刺を出して、あやめに渡した。地域の観光協会の責任者らしい。
「水谷さんにこんな素晴らしい娘さんがおられたとは、知りませんでした。是非、地域の観光産業に協力して頂きたい。」と言われ、あやめは少し困った。どう断ろうか考えていると、白石がやってきて、
「いやー、すまないね。彼女は鎌倉に住んでるわけじゃないんだよ。」と話を引き取ってくれた。あやめはホッとしながら、
「申し訳ありません。会社勤めをしておりますので、それほど頻繁にこちらに来ることもありませんし、今日は祖父に呼ばれて参加しただけですので。」と頭を下げた。白石が
「こっちの人間で、あやめさんの同世代となると…そうだ、橘さんを紹介しよう。彼女もお茶をやっているからね。」と言って、スーツの男性を伴って、いつの間にか奥のベンチで着物を着た年配の男性に話しかけている橘の元へ連れて行った。あやめはその様子を見ながら、白石は中々の策士っぽいなーと思った。あやめは土間の方へ戻り、使い終わった菓子器などを集めていると、先程の女の子が一緒に写真を撮ろう。と言ってきた。あやめは、喜んで快諾し、和三盆の袋を持った女の子と一緒にカメラに収まった。彼女の両親と会話をしながら、店先まで見送り、See youと挨拶をしていると、白石夫人と北見部長が驚いた表情でこちらを見ていた。あやめは驚きながらも、水谷の人間として
「いらっしゃいませ。昨日はありがとうございました。」と白石夫人に頭を下げた。白石夫人は
「いいえ、こちらこそ。あやめさん、紹介するわ、甥の雅也。」と何も知らないようであやめに北見を紹介した。驚いた表情のままの北見を見て、慌ててあやめは、
「部長、これは別に副業ということではなくて、祖父にお茶会イベントに参加するよう言われただけですので…。」と弁解をした。白石夫人は驚いた顔で
「あら、知り合いなの?」と北見に聞いた。まだ驚いた表情であやめを見て、何も答えない北見に代わって、あやめは
「はい。私、北見グローカルコーポレーションに勤めておりますので、北見部長にはいつもお世話になっております。」と白石夫人に説明をした。白石夫人は
「まぁ、そうなの?」と驚いた表情であやめを見て、北見を見た。まだ固まっている北見に
「雅也ったら、あやめさんにすっかり見惚れちゃって。」と笑った。白石夫人の言葉にやっと我に返った北見は
「あぁ、本当に驚いた。おばさんの言う通りだ。着物も似合っていてすごく綺麗だ。」とあやめの手を取って言った。あやめは思わず、
「北見部長?この手は何ですか?」と顔を引きつらせた。白石夫人は
「まぁ、雅也ったら。こんな店先で、あやめさんが恥ずかしがってるわよ。」と嗜めた。北見は、
「すみません。あまりにキレイだったのでつい。」と言いながら手を離した。あやめは何を言うんだこの人はと絶句すると、白石夫人が
「まぁまぁ。邪魔者はさっさと退散するわ。」と店内へ入っていった。あやめは何だこの状況と思いながら、白石夫人の後を追って店内へ入ろうとすると、北見があやめの手を取って止めた。あやめが驚いて振り返ると、真剣な表情の北見が
「ごめん。少し話がしたい。」と言った。
「今、ですか?」とあやめが聞き返すと、北見は頷いて、あやめの手を引いたまま店を背にして歩き出した。