ハイスペックなイケメン部長はオタク女子に夢中(完)
7.着物の誘惑

二階の住居スペースに上がると、竜二の妻の恭子が和室で着物を広げて待っていた。恭子はあやめの高校の時の二つ上の先輩で、呉服屋の恭子の家とは、祖父の代から家同士の繋がりがあり、二人が結婚すると聞いた時、あやめは本当に驚いた。

「恭子じゃぁ、あとよろしく」と部屋を出ていく竜二に、

「え?どういうこと?」とあやめが聞くと、竜二はニヤッと笑って

「巻き込まれたんじゃないぞ、あやめの案を尊重してるんだからな」と意味深な言葉を残して竜二は部屋を出ていった。どういうことか理解できないまま恭子を見ると、

「あやめはどっちが良い?」と聞いてきた。あやめは広げられた着物に目を奪われそうになり、首を振って、

「いやいや、どういうこと?全然ついていけてないんだけど。」とあやめが言うと、恭子は笑って

「またうちの人に適当に言いくるめられた感じ?」と聞いてきた。あやめは言いくるめられたのか何なのかもわからず、

「言いくるめられたのかな?っていうか状況がつかめない。」と言うと、恭子は、

「私が竜ちゃんから聞いたのは、お義父さんを説得するために、あやめに中庭でお茶点ててもらうって。そのための着物の準備を頼まれたんだけど、違うの?」とあっけらかんと言った。あやめは、思わずまた竜二にしてやられたことを痛感した。竜二の策略に嵌った感は半端ないが、かかったであろう改装費のことが頭に浮かび、目立つようになった恭子のお腹に目をやると、無視して帰れる程の冷酷さはあやめにはない。それに目の前に広げられた着物は、正直魅力的だった。昔から祖母が着せてくれる着物が好きで、学生の頃から着付けも習い、訪問着なら自分一人でも着られるし、人に着せることもできる。恭子が出してくれていた着物は、小紋の朱の入った薄い桃色のものと、裾に大きな花模様が入り、襟元にはオミナエシが描かれた鶯色の着物だった。あやめはお茶を点てるのに無難なのは前者だなーと思い、

「こっちが無難かな?」と恭子に聞くと、

「えー、こっちが良いよ。外だし、あの庭この時期あんまり咲いてる花もないんだから、このくらい彩りあったほうがお義父さんは喜ぶと思うけどなー。」と言った。あやめが、

「そーか。お茶室じゃないからこのくらい派手でも問題ないのか。」と呟くと、

「はい、決定。じゃ、帯はこっちで、半襟と帯揚げはこれで、帯締めは絶対コレ。」と恭子はどんどんと決めていき、全てを出し終えると、

「メガネは外しなさいよ。あと、ちょっとそれじゃ薄いから、チークはこれで、リップはこっちかな?」と化粧品を出し、

「じゃあ私、先に下の準備して手伝ってくるから。」と出ていった。閉まった障子戸を見て、あやめはふーと大きく息を吐き、流された感は半端ないが、ここまで来たらやりきるしか無いと諦め、気合を入れて着つけを済ませ、化粧を直し、編んであった髪を首元でくるくると丸めて止めて、襟足を確認すると、一階へ降りた。



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