ハイスペックなイケメン部長はオタク女子に夢中(完)
9.悲惨な一日

お詫びの客が退けると、竜二は祖父の元へやってきて、

「客の反応も良いから、是非イートインを認めてくれ」と頭を下げた。祖父は、怒りながらもきちんと見渡していたようで、あやめも気になっていたサーバーと、工房の見学窓が気に入らなかったようだった。竜二も、サーバーはイマイチ受けが良くないことを理解し、きちんとしたサービスを提供することを考え始めたようだった。工房の窓に関しても、いつでも見られるというのは、問題もあるので、見せられる作業のみ観光客に見てもらえるよう、カーテンをつけることで話は落ち着いた。

「で、あやめのお点前は披露してもらえるのか?」と祖父に言われ、あやめは早速準備をして、久々にお茶を点てた。祖父に満足してもらったところで、あやめはさっさと帰ろうと上に上がろうとすると、

「あやめ、せっかくいい着物をきているんだから、もう少しお客さんを饗して行きなさい。」と祖父に言われてしまい、帰るタイミングを失ったあやめは、結局夕方まで土間でお茶を点てる羽目になった。いつの間にやら竜二はお抹茶付の料金表を大きくレジに張り出し、店前でも、声がけを始めたため、かなりの集客数になり、恭子とあやめの二人でお抹茶を点てたり、煎茶をついだりと、バタバタと忙しい1日が終わった。

「明日もよろしくな」と冗談にもならない事を言う竜二を完全に無視して、着替えに上がり、なんて1日だと思いながら、そっと帰路についた。

電車に揺られながら、外が暗くなり窓に写った自分の顔をふと見て、疲れがにじみ出てるなと思いながら、この格好だとこの化粧は濃すぎることに改めて気づき、口紅だけでも落としてくれば良かったな…と思った。とはいえ、もう家に帰るだけだし、まぁ良いか、と諦め、ウトウトしていた。あやめはいつも使う沿線に乗り換え、空いていたドア前のポジションを陣取り、疲れからか無意識に小さなため息を零しながら、窓の外を見た。後10分もすれば最寄り駅に着き、自宅に帰れるあやめは、今晩何食べよう…冷蔵庫に何かあったかな…とぼーっと考えていると、次の駅に着いた。人の乗り降りの邪魔にならないように気をつかいながら端の方へ寄って、相変わらずぼーっとしていると、妙に視線を感じた。あやめは、今の自分の化粧を思い出し、まぁ見られても仕方ないかと思いながらふと視線をあげると、黒のTシャツにベージュのジャケットを羽織った北見が目の前に立っていた。一瞬驚いた顔をしたあやめに、

「吉田さん?…だよね?」と北見が微笑んだ。あやめは、気づかないでよ…ってか、声かけないで…と思いながらも、目の前で声を掛けられてしまったからには無視するわけにもいかず、

「こんにちは。」と、会釈を返した。

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